第三十一話
「僕のせいですよね」
接頭辞のつかないコーヒーで唇を湿らしながら言う後輩にどう返答したらいいか分からなくなってしばらく逡巡していたけれどもうこの際いっそ機嫌を損ねるようなことを言ってしまってもそっちの方が都合がいいかもしれないと思いつつ「そうかもね」とぶっきらぼうに放つと悲しそうな顔をしながら「すみません。こんな性急に言うべきことじゃなかったんですね。かえってあなたを苦しませてしまった」などと謝られてしまえばますます窮する。
「ウチダ君、似てるんだよ」
「……サエジマ先輩にですか」
「そう。顔とか性格は全然だけど、ちょうど一緒にいてそっくりのところに嵌る」
「はあ」
「なんて言えばいいんだろうね」
とても何か口に入れようという気にはなれなかったので両手で包み込んだアールグレイは懐炉の用しかなさず、もう何だかどうでもよくなって全部投げ出してしまおうかという気になったから、
「まだ、僕と付き合ってくれる気はあるの」
「それであなたの苦しみを減らせるなら」
「じゃあ、お願いしようかな」
「分かりました」
「あとさ」
「はい」
「恋人が意識不明になってる人間に対して付き合いましょうってのがおかしいんだよ。散々振り回した挙句謝りもせずに不倫に付き合ってくれなんて言う僕も大概だけどさ」
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