第二十七話


「先輩にとっても悪いお話じゃないと思うんです」


 断ったと言うのに一歩近づきながら顔を耳に寄せて囁く彼の柔らかな声は惹かれてはいけないと必死に己の胸に言い聞かせてもなおどこかリク君に似ているような気さえして。


「サエジマ先輩の目が覚めたら、僕のことはどうしてくださっても構いません。僕をその人の代わりにしてください」


「だから、僕はそんなつもりで君と――」


「先輩が悩む必要はないんです。そうしないと僕の気が済まないだけですから。さあ、どうですか? サエジマ先輩がどんな方だったかは知りませんが、僕はどんな真似でもしてみせますよ?」


 そっと背中に回される手の平。頬に生温い息が当たるのがまるで直に触れられているようでつい懐かしいぬくもりに身を委ねてしまいそうになるうちに戸を開けて入ってきたイズミさんにも気が付かないほどに目は眩み。


「――シュント先輩?」

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