第二十四話


 放課後、クラスのみんなは屋台の準備で忙しそうにしているんだけれど僕は「演劇部があるから」とすべての仕事を断ると二日目のシフトだけ入れてもらって特別棟の最上階へと向かうとジャージに着替えてストレッチを始める。


「先輩、おはようございまーす」


 掃除がないかぎりウチダ君が来るのは早い方で役者でも部員でもないから都合のいい時間に来てくれて構わないと告げたのに律儀に基礎練習に付き合ってくれるのは嬉しいけれどそういえばどうして彼がクラス委員を他の子に任せてまで手伝ってくれるのか聞いたことがないなと脳裏に過った。


「先輩」


「なに?」


「なんでおはようございますなんですか」


「実はね」


「はい」


「僕も知らない」


「そうなんですか?」


「多分ミナミ先生なら分かるけど、僕は知らない」


「そうですか」


「ねえ」


「はい」


「何で来てくれたの?」


「あの、サデュザーグに遭遇した先輩」


「サエジマリク」


「そう、サエジマ先輩」


「うん」


「サデュザーグに遭遇したせいじゃないですか」


「うん? ……うん」


「僕がどうにかしなきゃと思って」


「ん?」


「いや、説明難しいですね」


「そうみたいだね」


「……サデュザーグのせいで、上演できないってなったら嫌なんです」


「もしかして、ご家族とかが被害に遭ったの?」


「そういうわけじゃないんですけど」


「じゃあ、優しいんだね。こんな我がことのように心配してくれて」


「そういうわけでもないんですけど、けどぉ……」


「……難しいんだね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る