第十九話


「リクはいつになったら起きるのかしらね」


 和気藹々とした会話の中で何気なく呟かれたそれは僕らが務めて口にしないようにしていた言葉だったのでお父さんは彼女に険しい視線を向けたしミウちゃんだって腰を上げて止めようとしてたけれど一度こぼれてしまった思いは堰を切ったように溢れ出る。


「時々このまま起きなかったらどうしよう、って思うの」


「いいえ。起きますよ、きっと」


「でもまだ誰も起きてないんでしょう?」


「リク君ならきっと起きてみせます」


 僕がそう信じたくてそう信じなければとうてい心の安寧を保てないからやめてくれ、やめてくれと懇願するように返す言葉も空虚さばかりが目について余計に苦しくなっていく。


「なんで――」


「もうこの話は止めにしよう。……ハルコ、菊菜の皿をくれ」


 凍り付いたように止まっていた食事の手はまた動き出したけれどみんな口数は減ってぎこちなく笑いながら箸を握っているのが悲しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る