第十三話


 流石にここまで暗くなってくると危ないので駅まで送らせてくださいという言葉に甘えてふたり歩幅を合わせてのんびりと歩く帰り道、まだ幼さの残る頬を信号機の赤に照らされながら彼が話題を変える。


「そういえば、先輩って演劇部なんですよね?」


「うん」


「文化祭は何やるんですか? 見にいきたいです」


「後輩が書いてくれた台本を三十分くらい使って上演するの。イズミさんって言う子なんだけど、知ってる?」


「ああ、イズミさんですか。一年の時クラス一緒でしたよ。その時イズミさん委員長やってて、僕も会計委員だったんで何回か話しました。毎回現代文のテストで学年一位取ってるんですよ。演劇部は偏差値高いんですかね?」


「さあ? 普通にイズミさんがずば抜けてるだけだと思うけど」


「――イズミさんの劇かぁ、何かすごそう」


「たぶん上演するのは無理だろうけどね」


「え、そうなんですか?」


「主演の子が今、意識不明でさ、サデュザーグに出くわしたらしくて。人数ぎりぎりで回してたのに欠員がでたせいで、準備だけはできてるのに、本番じっさいにやることができない。僕ら三年にとっては最期の舞台だったんだけどね。だから、折角見たいって言ってくれてるのに見せられないかも。ごめんね」


「……こちらこそ、すみません」


「別に君が気にすることじゃないさ。これはある種の災害だからね、仕方ないよ」

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