第九話


「んん? おう……分かった。行く」


「大丈夫ですか、足元フラフラですよ」


「おう」


 部室兼稽古場に戻るとイズミさんがひとりで練習しているのが見えたのだけれどいつ見たって彼女の演技は体の動かし方が自然で伸び伸びしているものだから羨ましくなる。


「うまいですよね、あの子」


「そうだな。呑み込みが早い」


「僕なんかよりずっと」


「お前はなあ、どうやってもブリキの人形みたいになるんだよな。発声だけなら俺が見てきた生徒の中でも一番なのに」


「三年間演劇やっても直りませんでしたね」


「いや、だいぶマシにはなってるぞ」


「本当ですか」


「おう」


 一区切りついてこちらに気が付いた彼女はとたとたとこちらに駆け寄ってくると先生が「相手に聞こえないように言う演技をするときは大げさに客席の方を向きながらやれ。それじゃ面と向かって言ってるように見える。あと気になったことは……」とアドバイスしだしたのに耳を傾けている。

 僕はリク君のやるはずだった役を代わりに務めることになっているのでさっきイズミさんがやっていたところからまた入れるように大道具の椅子を持ち上げると目印にと貼っておいたバミリテープの上に置きなおした。

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