第八話


 色々なものを運び出してすっからかんになった稽古場に今度は大道具や小道具やらを置いていくことになるのだけれど二人掛かりじゃなきゃ持ち上げられないものだけ一緒にやるとあとはイズミさんに任せて、僕は一階の職員室に向かう。


「失礼します。演劇部のオオヤマです。ミナミ先生はいらっしゃいますか」


 返事もなかったのに僕が迷うことなく窓際のデスクへと歩いていったのは先生の席と呼んでも反応がない理由を知っているからで、案の定彼はアイマスクをつけて座ったまま器用に眠っていた。


「ミナミ先生、起きてください。部活の用意できました。行きましょう」


 手入れが面倒くさいからと中途半端に伸びた髪や鬚にはちらほらと若白髪が混じっているせいで実年齢より老けているように見えるけれどこの人はまだ四十代で、何でこんな姿になってしまったのかと言えば三年七組の担任かつ演劇部顧問かつ県の演劇委員会の役員かつシングルファザーとして毎日寝る間もないほどに働きつづけているから。

 さっきまでくうくうとイビキをかいていたくせに揺り起こそうとした瞬間にかひゅっ、とそのうち死んでしまうんじゃないかと不安になるような息の吸い方をするのを見るとちゃんと休んで欲しいとは思うけれど本番が近くて切羽詰まってるんだから心を鬼にして起こさなければなるまい。


「先生、先生」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る