第五話


 鞄を降ろして一時間目の用意を机に突っ込んでいるうちに慌ただしいままホームルームが始まって担任のマユズミ先生が誰が休んでいるか確認したり委員の子にプリントを渡したりしながら連絡事項をいくつか口にした。


「ここ最近ずっとうちの県でサデュザーグが目撃されてますから、皆さんくれぐれも不要な外出はしないように。危機管理ができないのは馬鹿だけですよ。あと文化委員は屋台の予算の書類を金曜日までに提出しろとのことです。文化祭前で気分が浮かれるのは分かりますが、決して羽目を外し過ぎたりはしないように。では」


 職員室へと戻っていくマユズミ先生と入れ替わりに世界史Bのトダ先生がやってくるまで二十分近くあるから今のうちにウチダ君に頼まれていた問題を解いておこうと思ってスマホを片手にノートを取り出すと後ろからした人の気配。


「何やってんの? 古文?」


 首を捻って見ればクラスメートのサカタ君が肩越しに近づいて液晶を覗き込んでいるのに気付いて思わず身が固まるんだけれど相手はそんなこと気にもしていないようで真顔のままじっと見つめて返事を待っている。


「……うん。後輩に教えるの、頼まれてて」


「リク以外にも話す人いたのか」


「当たり前じゃん。僕のこと何だと思ってるの」


 彼がリク君と話しているのはよく見かけるけれど僕自身は余り会話することがなかったからぽつりぽつりと話しかけられるたびに戸惑ってどう受け答えすればいいのか分からなくなってしまう。

 そうこうしているうちに予鈴が鳴り、彼は席へと戻っていく。

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