第四話


 最寄り駅を出発しても車窓から見える風景はしばらく畑ばかりなせいで間に合うかどうか今までこの時間帯の便は乗ったことがないぞと不安が募るものの数十分も揺られつづけるうちに見慣れた制服が視界に入ってきたのでああよかったと胸をなでおろす。


 定期を使って改札を抜ければ広告の貼られた柱に凭れかかっている生徒の顔が見知ったものだったので呆れてしまったけれどこのまま無視してもずっと待ちつづけるんだろうなと考えて声を掛けようとしたところ、向こうから気づいて近づいてきたのでそのまま速度を変えずに早歩きを続ける。


「ウチダ君、何で待ってるのさ」


「先輩と一緒に登校したくて」


「君この駅使わないでしょ」


 こんなご時世なんだから真っ直ぐ学校に行かないと危ないよと付け加えれば「僕は大丈夫なんで」とまた見当違いな返しをされたのが面倒くさくなって「さっさと行こう。遅刻したら恥ずかしいし」と腕を掴んで引っ張っていく。

 なんやかんや言って察しが良くて素直な子なのでちっとも力を入れなくても一緒に走ってくれるのが眩しいけれどいざ自分がこちら側に回ってみれば無駄に照れてしまうしリク君はよくこんなことができたなと思ってしまう。


 数か月前なら幼なじみの恋人が目覚ましから朝食までやってくれていたんだけど今思えばあんな贅沢なことはないんだなと実感しているうちに朝練を終えてギリギリで校舎に駆け込むバスケ部の姿まで見えだしたので「ウチダ君、またね」とだけ告げて三年の教室のある階に上っていく。

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