20話 十二時間の夢

 「ここからは、私に任せろ。」

シンデレラはお団子ヘアをほどき、透き通る髪を風に靡かせた。

「あれが、シンデレラさんの魔法…」

竹取野たけとりのかぐやがシンデレラから感じる圧倒的力に呆然とする。

「そうです♪あの魔法がシンデレラ様の魔法──『十二時間の夢トゥエルブドリーム』」です♪」

かぐやの隣に立つアーフェアが、シンデレラの魔法の名を告げる。

「後はシンデレラ様にお任せ下さいませ♪魔法が発動したあの方以上に、頼りになるものなんてございませんから♪」

アーフェアの言葉からとても信頼を感じたかぐやは、何だか安心感が生まれ、ここからの戦いをシンデレラに託すことにした。




 「どうした?怖じ気付いて動けなくなったか?」

レイピアを構えるシンデレラが、動きを見せないがしゃどくろに対して挑発をする。しかし、がしゃどくろは反応を見せない。

「そっちが攻めてこないなら、こちらからいくぞ!」

シンデレラは瞬時にがしゃどくろの顔の目前まで移動すると、攻撃を仕掛けようとする。だがそれよりも先に、がしゃどくろがパカッと口を開き、咆哮を上げた。

危険を察知したシンデレラは攻撃をすぐに中止し、自身の周囲に硝子のバリアを展開して咆哮から身を守った。しかし、すぐに硝子のバリアに罅が入る。

(あまり猶予はないか…!)

シンデレラがそう考えた時には、もう硝子のバリアは砕ける寸前であった。そして次の瞬間、硝子のバリアは美しく砕け散った。

シンデレラは硝子のバリアが割れた瞬間にがしゃどくろの頭上まで移動する。そして鼓膜が破れそうな咆哮の中、レイピアを構える。

「いい加減…!うるさい!」

シンデレラが強烈な一突きを頭上から浴びせた。すると衝撃が頭蓋骨を貫通し、がしゃどくろの下顎を外した。それにより厄介な咆哮がようやく止まった。

「このまま畳み掛ける!」

シンデレラはがしゃどくろの全身に連続で突き攻撃を浴びせ、風穴を空けていく。しかし、空いた風穴には瞬時に紫色の火の玉が埋まり、体の崩壊を防ぐ。

(ちっ…思いの外賢いな。だが、このまま押し切る!)

シンデレラが攻撃を継続しようとした時、がしゃどくろが短めの咆哮を上げる。すると、風穴を塞いでいた紫色の火の玉ががしゃどくろの体に纏わり付き始め、そして鎧へと形を変えた。そして真っ直ぐにシンデレラを睨みつけた。

「おや、ようやくを標的にしたか。」

シンデレラがレイピアを構えると同時に、がしゃどくろは明確にシンデレラだけを標的にすると、拳を握り締めて振り上げた。

そして数秒の睨み合いの後、がしゃどくろが先手で拳を振り下ろした。シンデレラは一切動じることなく、真っ向から渾身の突き攻撃で応戦する。

拳とレイピアが衝突した刹那、周囲に爆発的な衝撃波が発生する。そして軍配は、レイピアに上がった。シンデレラの一撃は拳どころか腕ごと吹き飛ばした。それによりがしゃどくろは大きく怯み、隙をつくった。

この好機をシンデレラが逃す筈がなかった。レイピアを構えると同時に、がしゃどくろとの間にいくつかの魔法陣が展開される。

「これで終わりだ![ストライクハート]!」

シンデレラは魔法陣を通過するごとに速度と威力を上げながら、一直線にがしゃどくろに突進する。そしてがしゃどくろの左胸、本来心臓がある部分を刹那の速さで紫炎の鎧ごと貫いたのであった。

 がしゃどくろはポッカリと左胸に風穴を空けたまま力なき咆哮を上げると、風穴を中心にボロボロと体が崩壊を始め、約120メートルをもある巨体骸骨は、10秒と経たずにバラバラとなり、その姿を消滅させた。


 勝利を確信したシンデレラは、かぐや達が待つガラスの浜へと戻り、皆の前に着地する。そして魔法の力を解除すると、髪と瞳の色が元に戻った。

「……今のがシンデレラさんの魔法ですか?」

まだ桜音木がシンデレラに尋ねる。

「ああ。十二時間の夢トゥエルブドリームという名の魔法だ。能力は、そうだな…メインとなるのは身体能力の超絶強化だ。分類としては郷護民きょうごみんの長である豪太郎の魔法、筋肉増大ビルドアップと同じだな。あとはそこに、全属性魔法が使用可能になったりと、細かいプラスの部分はあるが、メインとなる身体能力強化に比べたら些細なものさ。」

レイピアを納刀しつつ、シンデレラが答える。

「充分反則級だろ。あっ、でもよ、その強さがあるんなら、あんた一人で鬼を殲滅出来るんじゃねぇか?」

火千が冗談混じりで訊く。

「それが出来ればそうしているさ。だが、当然出来ない理由がある。」

「『時間』、ですか?」

かぐやからの問いに対し、シンデレラは頷いた。

「そうだ。十二時間の夢トゥエルブドリームには制限がある。それが『時間』だ。この魔法は『12時』から『23時59分59秒』までの『12時間』しか発動が出来ないんだ。簡潔に述べると、午前は発動不可で、午後から発動可能ってことだ。」

「成程。だから俺達にがしゃどくろを足止めするよう指示したのか。」

凛太郎が納得する。

「ああ。君達の足止めがなければ、私の魔法が発動した時にはがしゃどくろが既に上陸していたことになっていた。そうなっていた場合、被害がどれ程出ていたことか。想像はしたくないね。」

「じゃあよ、逆に午前中のあんたってどうなんだ?」

火千が質問する。

「並の兵と変わらない。到底最前線で戦える力なんてないさ。豆鬼とうき級くらいであれば何とか戦えるが、強めよ悪鬼級くらいとなると厳しいかもな。」

シンデレラは答えながら髪の毛を元のお団子ヘアに戻すと、かぐやに体を向ける。

「さて、作戦骨砕きボーンクラッシュは完遂された。これにて我々リブカイハ騎士団と絶鬼団の共闘は終了だ。かぐや、共に戦ってくれて有難う。」

シンデレラが手を差し出す。

「こちらこそ、有難う御座いました。」

かぐやは差し出された手を握る。

「さ、私はまずリブカイハの民達に安全になったことを伝えに行くか。では、また会おう諸君。」

シンデレラはアーフェアと共に、ガラスの浜を後にした。リブカイハ騎士団の兵達も、着々と撤退を始めている。

「団長、我々も帰還しましょう。」

レッドフードが提案する。

「……そうですね。皆さん、帰りましょう。」

帰還命令を下すかぐやの顔には、悲しみが少し浮かんでいた。





 作戦骨砕きボーンクラッシュの夜。基地内の中庭の中心で、かぐやが祈りを捧げていた。

「弔い、といったところか。」

かぐやの背後から、凛太郎が話しかけてきた。かぐやは祈りを中止すると、クルッと凛太郎の方に振り向いた。

「これで少しでも、今作戦で亡くなった皆さんに対して謝罪になるかなって。」

「謝罪?」

「うん。色々と考えちゃうの。あの時の指示をああしておけば、もっと救えた命があったんじゃないかな、とか。もっと敵の事を調査してから攻撃を仕掛けた方が良かったんじゃないか、とか。あとは……」

どんどんと気持ちが沈んでいくかぐやに対し、凛太郎はかぐやの頭をポンと優しく撫でた。

「背負い込み過ぎだ。お前の心が壊れるぞ。」

「……ごめん。」

「死んでいった者達の命を気にするなとは言わない。ただ、重く考え過ぎてしまうと、お前自身が耐えきれなくなってしまう。もしもお前の心が壊れ、再起不能になった場合、この絶鬼団は終わる。そうなってしまうと、今回以上の命を失うことになるだろう。この最悪の未来だけは避けねばならぬ。だから、何でもかんでも1人で背負うな。いくらでも俺も…いや、背負ってやる。」

凛太郎がスッと別の方に視線を向ける。かぐやはその視線に自然と釣られ、同じ方向に視線を向けると、そこには桜音木、火千、レッドフードの姿があった。

「なんだよ。全員考えていること一緒だったのかよ。」

頭の後ろで両手を組むが火千がフッと笑う。

「あんな露骨に悲しい顔をされると、人もアンドロイドも関係なく、励まそうという考えになります。」

レッドフードが告げる。

「かぐや団長、向こうで他の団員達と共に今作戦成功の宴があるんです。まずは皆で喜び合いませんか?生きた者達が笑い合っている。その光景は、亡くなった者達の手向けになると思いますよ。」

桜音木が優しい笑顔を浮かべて告げると、かぐやも釣られてか、フフッと笑顔を浮かべた。

「そうですね。私達が今出来ることは、互いに笑い合い、明日への活力を得ることですね。」

「よーし!そうと決まればさっさと行こうぜ!早くしねぇと腹と背中がくっついちまう!」

火千は腹が減ったアピールをしながら、宴の会場へと向かう。

「心配不要です。いくら空腹状態でも腹と背がひっついたという事例がございません。」

火千の隣を歩くレッドフードが真顔で告げる。

「レッドフード…比喩表現だから。」

2人の後ろを歩く桜音木が、苦笑いしながらツッコみを入れた。

「絶鬼団はお前だけの団じゃない。頼もしい仲間達がこうしているんだ。遠慮なく頼れ。」

フッと笑いながらポンポンとかぐやの頭を撫でた後、凛太郎は先に桜音木達を追いかけた。

「……はい!」

かぐやは凛太郎達の背中を見て、少し涙ぐみながらも、元気のある返事をしてから合流するのであった。

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World of Fairy tale 〜童話世界での軌跡〜 眼鏡 純 @meganejun

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