episodeファイナル ~オープニング~
久しぶりに。否、初めて目の当たりにした心にくるセリフだった。
どこか、面倒ぐさがっていた自分がいたのだろう。
どこか、やる気のない自分がいたのだろう。
どこか、諦めていた自分がいたのだろう。
でも、大事なことに気が付いた。
気付かされた。
気付くことが出来た。
“僕はこの映画で何を伝えたいんだろう”
さっきまでは自分にできること、思いつくことを行き当たりばったりでやってきた。
そうしてここまでやってきた。だから気づかなかったのかもしれない。
そして机に付箋を貼りマーカーペンで“覚悟”と書いて、もう一度原案に目を通し始めた。
あれも、これも、それも。今まで撮ってきたシーンも、どこかピンボケした感じの内容になっていた。
だが、ここまで撮ってきたリアルという面で見ればすごくいい状態にも思える。
多少原案に手を加えるも、絵コンテに磨きをかけた。
内容としては20分もかからないような物語だろう。
だが、その20分間で本気で取り組もうとする姿を詰め込んだ。
撮影許可が下りるのは明後日。
来れる人だけでも呼んで撮影を再開した。
そこからは目まぐるしかった。
依然として学校は始まらないし、撮影できるのも3日だけだった分、急ピッチで撮りまくった。
映画を作り始めるシーン。主人公が、なんのメッセージを伝えたいのか考え込むシーン。本気というメモを書くシーン。主人公たちが、図書館で撮影を始めるシーン。
今までの自分と、今の自分を参考にしながらセリフや動きをしていった。
実際にあったことに、ストーリー性を加えて再現するだけではなく見ている人に伝わりやすい自然なカメラワークっていうのが何より大変だった。
どうしても、行き当たりばったりで進んでいる感は拭えなかったものの、本気で物事に取り込むリアルな高校生の姿を全力で表した。演技ではない、リアルで。
撮影が終わってからはさらに忙しかったように思う。
学校のオンライン授業は最低限は受けつつも、映像編集や音声収録、せっかくなのでBGMも作ったし、みんなにもお願いして、映像確認やアフレコ、動画検査もした。
そうしていくうちに気がつけば進級していた。
高校2年生。17歳。テレビでも取り上げられるその年齢というのは青春のピークとも言えるのではないだろうか。
事実、身の回りでもバカッ...カップルと呼ばれるものが増えたり減ったりしているとか。
今まで高校生というのは最も身近な、もっとも遠い存在という矛盾極まりない印象でしかなかった。
中学3年の夏を過ぎた頃だっただろうか。将来の夢ではなくどの高校に行きたいのかという方が先行してきた。
それまでは、いつかなるであろう先輩ポジションだったものに自分がなるわけだ。
大人ほどではないけれど、なんでもできるのではないだろうか。素晴らしい出会いがあるのではないかと期待に胸膨らませていたわけだが、実際高校生になってみて、その夢はすぐに瓦解した。
主人公がほざく平凡な日常というのはあまりにも無機質で、不幸体質だとか、巻き込まれやすいだとか、ツッコミ担当だとか…メインヒロインだとか。そんなものなんてなかったのだ。
いや、それを欲しすらしていなかったのだ。
結論。高校生なんて、見掛け倒しのなんでもない時間なのだろう。
映像美に触れ、少しだけ誰かと仲良くなって、映画も絶賛制作中。
けれど、物足りなくなってしまった。
何かに手中しているときはさほど感じないが、どうしても払いきれないやるせなさ。
大人が、親が言うような努力も奇跡も物語もあったもんじゃなかった。
面倒くさい、つまらない、だるい、辛い。わかんない。わかんない。わかんない。わかんない。
…それがいい。それでいいのかもしれない。
突如として現れたその怪物と、戦うもよし、逃げるもよし、仲良くなるもよし、無視するもよし。
その全ての行動を許容し、肯定し、そして脚色される。
それが青春という魔法だと思う。
物事の学習期間である小中学生の時に感ずく人もいれば、大人になっても分からないままでいる人もいる。
誰もが使えて、誰のものでもない魔法。
それが青春。突拍子もなく、ただ脳内で駆け巡った思考性が導き出した答えはそれだった。
その答えがなんになるのかもわかんないけど、この春休みに手にした答えは何故かそれだった。
ほんと..よくわかんない。
そうして始まった高校2年生。
一ヶ月が経ち、作品も完成した。
今もなお、学校にいけない時間が続いているわけで…
クラス替えもなく、チャット欄に完成した動画を載せるには少しだけ都合が良かった。
…載っけて良かったのかな。
全員が全員参加しているわけじゃないから、全員のいるチャットグループではなく、制作の方に送るべきだったか…
そんなことを悩んでいると、チャットの通知音が連続で鳴り出した
”すごい!
おお〜
俺も出ればよかった
映像研やば!
…なんだよこれ
私たちは、何を目にしているんだ!“
夢でもみているのかと思った。
どうしても楽しみきれなかった感が抜けなかったのに、そんな気持ちは今を以って終了した。
ははは。そんな言葉が溢れてしまった。
思いっきり椅子から立ち上がり、最近ろくに話してなかった母親に見せに行った。
「す...すごいじゃない」
そう言いながら、少し震えた声で喜んでくれた。
思い描くような春模様でもなければパステル調でもなかった。
だけど…案外悪くない青春模様だと思える。
…でも、今になってようやく
思えるようになった
あぁ、そもそも盗難届なんて出す必要なかった.と
…代わりに出した、部への昇格届。
それと同時に、宛先不明の盗難届は宛先をようやく得た。
やがてそれを、そっと胸の内にしまった。
青春盗難届 大市 ふたつ @Remone-xo
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