第23話 幸せなプロポーズとその後の人々

急に照明が落とされ、気付くと私とクロードにだけスポットライトが当たっていた。


何が始まるの?


アーサーとエリザベスが退場したにも関わらず、予定と違う進行に不安を感じていると、クロードが私の前で片膝を付き、左の胸ポケットに右手を差し入れた。

辺りは水を打ったように静かで、世界に二人しかいないみたいに感じられる。


「アメリア、劇は思った通りに進まなかったけれど、今日渡すと決めていたんだ。僕と結婚して下さい。君を一生愛し、守り、幸せにすると誓うよ。」


クロードの右手には、ライトを浴びて輝くダイヤの指輪があった。


え?

指輪を用意してくれていたの?

これってプロポーズ??


思わず後ろを見ると、生徒会のメンバーがニヤニヤと楽しそうにこちらを見ている。


もしかして、みんな知っていたの!?

あ、もしかして劇の練習の時にコソコソしてたのって、これ?

もう、私に内緒でこんなことして!!


みんなの気持ちが嬉しくて涙が出てくる。


「アメリア、返事を聞かせて?」


そんなの決まってるじゃない。


アメリアはクロードの首に思いっきり抱きついた。


「うわぁ!!!」


急に抱きつかれたクロードが、驚いて体勢を崩すが、会場は今日一番の歓声に包まれ、大きな拍手が鳴り響いた。


「いいぞーっ!!」


「お幸せにー!!」


祝福の言葉が二人に降り注ぎ、クロードに指輪を左手の薬指に嵌めてもらったアメリアは、誰よりも美しく笑っていた。



「あーんなに練習したっていうのに、全っ然台本通りに行かなかったわねー。ま、終わりよければ全て良しって感じー?」


セレンが言うと、


「このエンディングにさえ辿り着ければ、実は何でも良かったですからね。」


「内容はともかく、印象深い余興にはなったかもな。」


エミールとフレディが頷く。


こうして、余興の断罪劇は幕を下ろしたのだった。

台本とは大分違ったが、皆の心に強烈な印象を残して・・・。




2ヶ月後、クロードとアメリアの結婚式が盛大に行われた。


あの日の卒業パーティー参加者は、全員式に招待された。

貴族の派閥や爵位関係なく、パーティーで時間を共有した者達は喜んで出席し、皆心から二人を祝福してくれた。


断罪劇は世間でちょっとしたブームを引き起こし、なんと舞台化された。

しかし、本気で婚約破棄したり、断罪することはゲスの極みとばかりに敬遠され、今までより婚約者を大切にするカップルが増えているらしい。


卒業パーティーの余興としても、今までで一番の盛り上がりだったと伝説扱いされ、『これじゃあ次回のパーティーで何やったって霞んじゃうわー』と、セレンが嘆いている。


乱入してきた二人がその後どうなったかというと・・・



アーサーは領地で父親にしごかれ、脱走を試みる度に失敗し、連れ戻されているらしい。

まだアメリアに執着しているみたいだが、直にアメリアが結婚したことが伝わるだろう。

いい加減に諦めて、前を向いて生きて欲しい。


エリザベスは、学長から話を聞いた男爵が激怒し、庶民に戻されたそうだ。

今はパン屋で働いているみたいだが、斬新なパンを次々と作り出して、町で評判になっているとか。

エリザベスはやはり同じ転生者だったのだろう。

いつかパン屋を訪ねて訊いてみたいと思う。



「アメリア?どうかした?結婚式、疲れたかい?」


結婚式が終わり、新居に帰ってきた二人。


今日から夫婦としてここで暮らしていくのだ。


「ううん、大丈夫。なんだか劇のことを思い出して。これからも台本通りに行かないことがたくさんあると思うけど、一緒に乗り越えていきましょうね。」


「もちろんだ。どんな物語になろうとも、僕達のエンディングはハッピーエンドしかないよ。」


クスクス笑いながら抱き付いたアメリアを、今度はしっかりとクロードが受け止めた。




こうして乱入した邪魔者は成敗され、二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

この婚約破棄はお芝居なのですが・・・。乱入してきた勘違い男を成敗します! 櫻野 くるみ @kurumisakurano

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ