9月16日(木曜) 黄昏②

 夢を見た朝、俺は学校に行く前に広瀬に電話を掛けた。

 俺は親からスマホの類を持たされていないので、他のメンバーには広瀬を起点として連絡してもらう手筈になっていた。

 朝の短い時間なので伝えたのは簡単なあらましだけ。最も重要なのは、既存のプランを破綻させるほどの大きな新事実が有ったか否か。別の言い方をすれば、夢の中で俺たちが誰も死んでいないかどうかという情報だった。

 それが約束されていないとすれば、夢の中の行動を正確になぞる意味がない。夢の内容次第では、しばらく全員で登校を控えることも考えてあったが、俺の判断ではまだ作戦はGOだった。


 登校し、教室に入ると、広瀬、白峰、吉岡の三人が揃って俺を待ち構えていた。

 教室の中でこの四人が揃いあの夢の話をすることは珍しい。

 俺は、自分たちが計画した〈モヤゾンビ〉の封じ込め作戦が、夢の中でもほぼその通りに実行され、概ね上手くいっているように見えたことを手短に伝えた。

 静かになった校舎内でどの程度の物音が許容されるのかは、俺たちの重大な関心事だった。気を付けていれば校舎内の移動に支障はない、ということが確定できたのは大きな収穫と言えるだろう。

 夢の終わり間際に磯辺が姿を見せたことと、白峰の姿が未だ見えないことについてもすぐに相談したかったのだが、横から中原が絡んできたので話を中断せざるを得なくなった。


 俺の夢の登場人物である中原、岩見、倉田の三人に対し事前に話を通しておくべきかどうかについては、結論を先延ばしにしたままだ。

 ただし、別のクラスにいる長谷川については、もうすでに夏休みに入る前から、俺が見た夢について断片的な情報を伝えてあった。

 予知夢かも知れない、という怪しげなことは言わず、何となく嫌な夢だったから念のため伝えておくというぐらいのトーンで、音に反応する化け物がいたことや、夢の中で自分たちが視聴覚室に籠っていたことを話した。

 長谷川がグラウンドから視聴覚室へと引き返して来た謎の種を、俺たち自身で蒔くことになったわけだが、もし仮に、今後見る夢の中で長谷川が重要な役割を果たすのだとしたら、長谷川には居てもらわないと困る、というのがそういう選択をした理由だった。

 長谷川には俺が直接行って話したのだが、普段の俺が到底しそうにない話題だったからか、長谷川は終始神妙な顔で耳を傾けていた。

 そんな話を聞いたからと言って、長谷川が俺の見た夢のとおり視聴覚室にやって来るかどうかは分からないのだが、間違いなく長谷川の記憶には残ったことだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る