5月17日(月曜) オカルト研究会探訪③
その後の授業では集合時間に遅れたことで、体育教師の中村に馬鹿デカイ声で怒鳴り付けられることになった。
中村は、今日は本気でタイムを取るからな、と皆に通告した後、俺と広瀬の二人だけは去年の学年平均を上回れなかったら追加でもう一周だと脅しを掛けてきた。
仕方なく普段のペースを無視して全力で走ったところ、今まで出したこともないようなタイムが出て、自分でも驚くことになった。
「おい、サノヤスゥ、速過ぎー。やっぱ、いつもは手ぇ抜いてたんかぁ」
クールダウンで身体を伸ばしているところに、広瀬がぐったりした様子で近付いてきた。
広瀬もなんとかギリギリ平均以上のタイムでゴールできたようだ。
「なあ、さっきのあれ、なんだったと思う?」
「さっきのって、白峰か? ……さあ? 何って、俺の方が聞きたいよ」
「あの後、詳しくは吉岡に話して欲しいって頼まれた」
「吉岡に? ……ああ、そうか」
「例えば、吉岡も俺と同じような夢を見てて、それを白峰に話してたから、俺と広瀬の会話が気になった、とかかな?」
白峰が現れる前に俺たちが話していたことと言えば、現実と同じくらいリアルで、不気味な夢といった程度のことだ。だが、そこに何かしら引っ掛かるものがあったのは間違いない。
そうでなければあの白峰が、わざわざ男子二人の会話に割り込んでくるとは思えない。
「……ややこしい想像だな。そこは、そんなに難しく考えなくていいんじゃないか? 吉岡が、っていうのは多分、白峰の体裁繕いみたいなもんだし」
「体裁繕い?」
「本当に興味があるのは白峰の方ってことだよ」
何を根拠にと思ったが、それについてはこれ以上説明する気がないようだった。
「俺は最初、サノヤスが狙ってああいうこと喋ってたのかと思って焦ったぜ。けど、そういうの、サノヤスのキャラじゃねぇよなー」
「狙うって何を?」
「如何にもあの不思議ちゃんが食い付きそうな話題だろ?」
「不思議ちゃん……。白峰のことか?」
「だろ? ミステリアスな感じ醸してんじゃん」
「不思議ちゃんていうのは、言動がおかしいというか、もっと天然系の女に使う言葉だと思ってた」
「あー、じゃあ違うか。でも不思議大好き少女じゃん」
「……そうなのか」
「やっぱり知らなかったのか。あいつらオカ研なの」
「オカケン……。オカケンって、オカルト研究会みたいな……」
「だよ」
白峰がオカルト研究会に所属して課外活動をしている……。
全くしっくりこない。
この学校にそんな部が存在していることも知らなかったし、白峰は帰宅部なのだろうと勝手な想像をしていた。
しかしミステリアス、という表現は確かに間違いないだろう。
白峰は普段から何処かしら浮世離れした雰囲気をまとった存在で、それだけに、学校の授業以外で部活なり何なりに勤しんでいる姿はなかなか想像しづらいものがあった。
あの白峰が、何かに関心を持つということがあったのか……。
渡り廊下で一瞬白峰が見せた奇跡のような表情がフラッシュバックする。
「付き合ってくれよ」
俺がそう言うと、何故だか広瀬は心底呆れたという顔で大きく溜息を吐いた。
「お前は相変わらず話を端折る奴だな。放課後サノヤスがオカ研に行くのに同行すればいいわけね?」
「そうだ。俺はオカ研の活動場所を知らない」
どうやらいくつか説明が足りなかったようだが、問題なく意図は通じていた。
こいつとはこういうやり取りが楽なので助かる。
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