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昼休みの学食はよく混む。



陽の差す最上階は一面ガラス張りで、高層が故に都会の景色が一望できる。


ここは一年の時から利用しているが、特に窓際は争奪戦であり、二限目がない日は先に座席を取れるがゆえ都合がいい。


ワンコインの日替わりランチにパセリが添えられていることに辟易とし、大盛り280円のカツカレーを選んだ。パセリは存在価値が見いだせないから嫌い。栄養素が文壇に含まれていると言ったって、詰まりはこんな飾り付け程度の量では役立たないわけだ。



本日の日替わりランチが電光掲示板に流れていく隣で、ポツポツと綴られている固定メニューを眺める。きつねうどん、ミートパスタ、ハンバーグ、カツカレー、ハヤシライス。


以前ネットニュースで話題になっていた大学では豪華な学食ランチが取り上げられていたが、それと較べてここは子供騙しのメニューばかり並べられている。


それに納得できない者は空きコマか何かで外に食べに行けば良いのだが、結果的に、学生に用意された狭い世界の中で、水槽の熱帯魚の如く泳いでいる。その世界は美しいと信じて、小さな宇宙をスイスイと。


君は何が食べたいのか、こういう時、いつも不思議に思う。見た感じの予想でいえば食に興味がなさそうだったが、なに、一つくらいは挙げられるものがあるだろうに。


僕に決定権を託さないで欲しいけど、問うたって返事があるわけじゃないから、僕は「ハイ、次、そこの子、はやく決めてね」と学食の職員の呼びかけられたのに口から出まかせで、学内酷評のメニューを選ばざるを得なかった。



僕と君は、恐らく類似している。



だが、とはいえ好みはきっと違う。一卵性の双子だって嗜好は全然違うし、行動範囲だって、人間関係だって、性格だって当然異なる。ドアの開け方、横の向き方、爪の切り方、答案用紙の書き方まで、全部違うと聞く。


同じようにサンタクロースが新型のゲーム機を一人一つずつ与えても、そうやって同じ腹から同時に出てきた人間さえゲームクリアの方法さえ違うというのだから他人同士に類似点があるわけもない。




流れ作業のように運ばれてきた皿をトレイに載せ、水を汲み、シーザーサラダドレッシングをキャベツの千切りにかけてやれば、瞬く間に浸されていった。


上澄みが乾いたままだから終えるタイミングを無くしたがゆえ注いだのに、いつしか底の方はドレッシングの海に染まっていたらしい。


ちゃちなプラスチック製の皿にカチャカチャとスプーンを当てる。


口にする前から浮いた油がカレーに滲み、掬いあげれば衣が剥がれ落ちた。値段相応であると思えばそれもそう。握りしめていた20円の丸が掌に象られたのを凝視していたら、剥がれた衣が音も立てずドロりとした茶の液体に浸食されていた。



「うわ、カツカレー」



スプーンを利き手に捕らえたままで窓際から外を眺めていると、背後から歯切れの悪い声が降ってくるので肩をすくめる。


7年連続学内ワーストワンを誇るメニュー、カツカレーは誰からも愛されないようだ。


学食の篭もりきった空気を包むようにして甘ったるい香水が漂うので、声の主は即座に把握出来た。




「2限もう終わり?」

「ン、てか抜けた」

「まじかよ」





とくに深く興味がある訳では無いので適当に流しはするが、此奴の考えていることはまるでよく分からない。


そういった点では、此奴にも君との類似点を探してしまう。向こうも恐らく俺の考えていることは推測し得ないだろうから、別にそれでいい。


先程から掌に染み付いている10円玉2枚の感触が気持ち悪くて紙ナフキンで拭いたら、一層こびりつく気がした。





隣に置かれた日替わりランチはパセリがふんだんに盛られたオムライスだった。


ふんだんのパセリを諦めて口にするよりは、油が染みて衣が剥がれ落ちるカツカレーのほうが幾分かマシに思えた。早瀬は同じようにスプーンをカチャカチャと鳴らし、ものの数分で平らげた。



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ヘヴン 永黎 星雫々 @hoshinoshizuku

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