第九章

第九章 父との邂逅、明かされる真実その一

 まりんは地に背をつけ、ぼんやりと空を眺めていた。全身が内側から痛み、筋肉や内臓を損傷しているであろうことが、医者ではない彼女にだって分かる。

 視線の先、上空を国連軍の戦闘機が何機も飛び交い、地上のあちこちからは戦車の砲撃、そしてキャンサー達が咆哮する声も聞こえてくる。

 そんな状況で彼女が意識を取り戻したのは、ほんのついさっきだ。


「ど、どうなった……んです。あれから、戦況は……」


 まりんは痛みに耐えながら、指先に軽く力を入れてみた。

 指は動くし、感覚も残っている。立ち上がろうと思えば、できそうだった。彼女は地面に手をついて、上半身だけをやっと起こしてみせる。

 そして、肺に溜っていた息を大きく吐き出すと、一息に立ち上がった。自分のいる所に戦車の履帯の音が、接近してきていることに気付いたからだ。

 恐らく偶然ではない気がした。明確な意思を持ち、向かってきている。それはこの世界で目覚めてから、幾度も修羅場を潜り抜けた勘のようなものだった。

 予想通り、十数台もの戦車が彼女の前方、十数メートル程の位置で停車する。しかし、車体前部のハッチを開けて現れたのは、意外な人物だった。


「まりんちゃん! ちゃんと生きてるよねっ?」


「ミ、ミリルっ! どうしてここにっ!?」


 心配そうな顔をしたミリルがまりんに駆け寄り、その身体を抱き締めた。酔いはもう醒めているようで、顔から赤みは引いている。

 なぜ彼女がここに現れたのか疑問に思っていると、更に聞き覚えのある声が届く。


「戦いに駆り出されちまったんだ、俺らもよ」


 別の戦車のハッチから顔を出して、そう答えたのは大佐だった。よっと声を出して戦車から飛び降り、鞘に納めた刀を手にしながら、こちらに歩いてくる。

 見知った人間と顔を合わせたことで、張り詰めていたまりんの緊張が緩んだ。ミリルはしばらく愛おしそうに彼女を抱き締めていたが、やがて解放してくれた。


「たった一人だけで、大変だったでしょ。ここからは私達も戦うからね」


「はい、ミリルと大佐がいれば心強いですよ」


 一人だけでと言われて、まりんは咄嗟にカルジのことを思い出す。あの時、一緒に大量破壊兵器の爆発に巻き込まれたが、彼も生き延びられているのか心配した。

 しかし、口には出せない。ミリルは以前、あの男のことを大嫌いだと言っていたので、ただ不信感を与えるだけだろうから。

 それに向こうに停車している戦車部隊は、どの国の所属なのかも気になる。まりん共々、敵を消し去ろうと大量破壊兵器を投下した戦闘機のことも。


「あの、ミリル。あの戦車はどこの国のものなんですか?」


「ええと、それはね……」


 まりんが聞くなり、ミリルは言い難そうな顔で小声で耳打ちしてくれた。


「露国の戦車部隊だよ、まりんちゃん。あいつら、カルジの襲撃を予め見越していたみたいでね。旭川市の外に、本隊を温存していたみたいなの」


「え、ええっ……じゃあ、ここに来ている国連軍って」


「うん、大部分が露国と、そして中国の軍隊の一部ね」


 あまりにも話が出来過ぎていると、まりんは思った。もしかすると旭川市での戦いは、予め露国と中国に仕組まれていたのではないかと、考えが過ぎる。

 だが、カルジの口ぶりからして、彼がその件に噛んでいたとは思えない。もし予想通りだとすれば、情報戦で露国と中国の方がカルジよりも上手をいっていたのだ。

 これは腐っても一個人と国家の、人材の豊富さの差というやつかもしれない。


「カルジの救世ボランティアの部隊とは、中国軍の本隊が交戦中よ。結果はどうなるか分からないけど、露軍はその決着前に目的を果たす気みたい」


「……そうですか。でも、今の私には関係ないです。札幌市に、どうしても倒さなくちゃいけないキャンサーが一体いて、これからそいつを追わなくちゃいけません」


「そう、私達に協力できることはない? 多分、今ここで信用できるのは私と大佐だけだと思うよ。孤軍奮闘することにならないためにも、助け合わないとね」


「なら……露軍と中国軍を見張っていてください。あいつら私を狙って、大量破壊兵器を使ったんです。もうあんな連中は、信用できませんから」


「……うん、分かった。くれぐれも気を付けてね」


 短いやり取りだが、まりんの気持ちをミリルに伝えるには十分だった。まりんは彼女にこくりと頷くと、背後を振り向く。

 そして全身に炎を身に纏って、見上げた空へと迅速に飛び上がった。地上から見る間に離れていき、彼女は大空から現在の戦況を一望する。


「キャンサーの群れが、散りじりになってまだ暴れてますね。そして国連軍は、そいつらと戦って……」


 そう口にしてみてから、まりんは気付く。国連軍……いや、露軍と中国軍は、ただ意味なくキャンサー達と戦っている訳ではないのだと。

 奴らが向かっている先は、札幌都市跡の中心地。まりんと同様に、天まで伸びている赤い光の地点だ。やはりというか、どうやら目的は一緒のようだった。

 無数の戦闘機がミサイルを発射し、戦車部隊がキャンサーの死体を踏み散らす。

 進撃は順調で、このまま何事もなければ、いずれ赤い光の地点まで辿り着きそうだった。

 これまで札幌侵攻に手を焼いていたと、セルゲイが言っていたのはブラフ。本戦力を他国に隠し、競争相手が激減するこの機を狙っていたのかもしれない。


「最初から自分達が他国を出し抜いて、世界を牽引する予定だったんですね。カルジもカルジですけど、露国と中国だってどす黒い悪党ですよっ」


 まりんは憤りで唇を噛みながら、速度を上げて奴らを追った。今まで見えていなかった敵の姿が、やっと見えてきた。

 なら、後は自分の道徳を信じて、奴らに正義の鉄槌を下してやるだけだった。怒りが纏う炎に影響を及ぼし、より燃え上がって、飛行速度を増していく。

 戦車部隊との距離をみるみるうちに縮め、列をなして地上を走行する奴らに、彼女は振り上げた拳から一気に炎を放った。


「はぁああぁっ!」


 飛来する炎が着弾し、大地を沈下させる程の大爆発が戦車十数台を吹き飛ばす。まだ被害を免れた相当数の戦車が走っているが、一先ずは無視すると決めた。

 数十機もの露軍の戦闘機が、まりんよりもずっと先をいっている。もうすでに赤く伸びる光の上空まで、到着していたからだ。

 あの場所に何があるのか不明だが、あんな連中に明け渡す訳にはいかない。まりんは、すぐに後を追おうと思った。

 しかし、その時、彼女は飛行中である自身の背後に、何者かの気配を感じ取る。

 ハッとなって振り返ると、そこにいたのは肌が焼けただれ、背から猛禽類のような両翼を生やしたザ・フールだった。

 その形相は怒りで歪み、今にも額の血管がはち切れんばかりだ。


「お、お前、まだ生きて……っ!」


「ま、り……んっ!!」


 ザ・フールは信じがたいことに、まりんの名を叫んだ。そして頬に向けて振るった拳で、彼女を地上まで殴り飛ばす。

 防御壁の炎を纏っていても貫通させられた程の、凄まじい打撃だった。

 まりんは猛スピードで地面に叩き付けられ、その反動で大きく跳ね上がってから、再び背中から墜落する。

 頭が昏倒し、くらくらした。かなりの痛みだったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。

 地に背をつけたまま、彼女はざわざわした気持ちで上空を見上げる。


「お父、さん……? 今の声……」


 まりんが見つめる中、ザ・フールはダイナミックに空中を回転しながら、隼の如く急降下し始めている。

 間違いなく彼女を目掛けて、急接近してきていた。そして着地間近まで迫り、ザ・フールは右拳を勢い任せに彼女に叩き込む。


「まり……んっ! まりっ……!」


「お父さ……っ!」


 まりんの脳天を目掛けて、ザ・フールの右拳が炸裂する。途轍もなく強烈な打撃が脳を揺らし、彼女の意識が一瞬、飛びかけた。

 瞬間、断片的とはいえ、過去の記憶が走馬灯のようにフラッシュバックする。その過程で、ずっと忘れていた父の外見が脳裏に蘇った。

 顎一面に髭を生やし、まるで熊のように逞しい体格。そして火傷のように潰れ、縦に三つの引っ掻き傷の痕がある左目。

 この傷は、まりんが幼少期の頃、通り魔につけられたのだと笑って話してくれていた。それも娘を守るために。やはり間違いない、すべての特徴が符合している。

 ようやく見つけた。一際強大な目の前のこのキャンサーこそが、父だったのだ。


「お父……さんっ! お父さん!」


 まりんは変わり果てた父の姿を見て、涙を流して呼びかけた。なぜ父が、キャンサーに変わり果てなくてはならなかったのか、理由など分かるはずもない。

 しかし、ただ悲しさのあまり、大粒の涙が止まることはなかった。そしてどれだけ殴られようとも、実の父を前にして戦意など湧くはずもなく……。

 地面に仰向けで横たわったまま、彼女は無抵抗で顔面を殴打され続けた。だが、混濁していく意識の中、すぐ近くで誰かが叫んだ。


「何だ、それはっ! このまま黙って殺される気か、東郷まりんっ!」


 それはカルジの声だった。父の背後からあの男は、跳躍しながら姿を現す。そして刀を振り下ろし、父の右肩に深く刃を喰い込ませた。

 しかし、上半身の強靭な筋肉に遮られ、心臓までは届かない。今の一太刀でトドメを刺すのは諦めたのか、カルジは刀を手元まで引き抜いた。

 不意をつかれた父が後ろを振り向き、今度はカルジを睨み付ける。そんな父と対峙しながら、カルジは更にまりんに呼びかけた。


「立てっ! まだ何も終わっていないぞ、東郷まりん! こいつを殺すために、お前も力を貸せっ!」


「お、お前なんかに、指図される謂れはないです! このキャンサーは、私のお父さんなんですよっ。なのに、お前は私に殺せって言うんですかっ!?」


「何っ? そうか、東郷ゼット博士は、自分にも薬を投与した訳か」


 カルジは戦闘体勢を維持したまま、一人納得したように、そう口ごもった。

 その間、どうしてか父は動こうとしない。背面の位置にいるため、まりんには父の表情を確認できないが、ただ唸り声を上げ続けているだけだ。

 しかし、彼女はさっきの走馬灯によって、ようやく前から知っている気がしていた、カルジの声のことを思い出すことができていた。

 聞き覚えがあるはずだ。何しろ、こいつは十年前に、東京でまりんの後頭部を銃で撃ち抜いて殺した張本人なのだから。

 まさかこの男が、あの日から生き延びていたとは思わず、妙な因縁を感じる。ただ、まだ取り戻した記憶は完全ではない。

 あの時点で、すでにどこかでカルジの声を聞いた覚えがあったはずなのだ。

 一体、どこで会っていたのか、そこまでは出てこない。しかし、その疑問の答えを求める思考は、カルジの言葉によって中断された。


「東郷ゼット博士とは、俺がデストック社に所属していた頃からの付き合いだ。しかし、まさか……こんな化け物に成り果てていたとはな。ならば、せめて楽に殺してやった方が救いだろう。そう思わないか?」


「お父さんを殺すっ? 私のお父さんを殺すって言うんですか!?」


 まりんは怒りによって、痛みも忘れて立ち上がる。父を間に挟んで彼女は、その向こう側にいるカルジに、殺意を込めた声で言ってやった。

 しかし、あの男は、それすら軽く受け流してしまう。あくまで今、ここで父を殺すべきだと考えているようだ。


「腑抜けめ、もうこのキャンサーは人の心を失っているぞ。父親に引導を渡してやる気がないなら、俺がやるだけだっ!」


「さ、させませんからっ! そんなことぉ!」


 まりんが炎を拳に集束させ、カルジを止めようとする直前。機先を制したカルジが、父の巨大な右足を蹴り飛ばしていた。

 バランスを崩した父が膝を突き、その隙をついてカルジがまりんに飛びかかる。そして彼女の顎を掴み、父の方を指差した。


「よく見ろ! あの男が何と言っているか、唇の動きをなっ」


 転倒していた父は立ち上がると、こちらを振り向く。カルジに言われるまま、まりんは父の顔を確かめようと見上げてみる。

 すると、父は両目から涙を流して、泣いていた。そして口をパクパクさせて、何事かを呟いているようだ。

 まりんは唇の動きから、何を言わんとしているかを察してしまう。


「殺し……て? わ、私に?」


 そう、父はまりんに、自分を殺害して欲しいと訴えていたのだ。父がこれまでまりんを攻撃していたのは、きっと本心からではない。

 恐らく今は父の理性が顔を出し、キャンサーとしての殺戮本能に抗って、戦いの手を止めてくれている。そして実の娘に討たれることを望んでいるのだ。

 それを理解して、まりんの心に悲しみが波のように押し寄せてきた。しかし、涙は溢れ出すものの、父に何をしてあげられるか、そんな気持ちが駆け巡る。

 逞しく、優しかった父。そして幼少期に腕力に恵まれた傲慢さから、今とは違い、好戦的な性格だったまりんに、暴力の非道さを教えてくれた。

 まりんは、昔を思い出す。気に入らないことがあると、男子相手でも暴力に訴えてガキ大将を気取っていた、目を覆うような自身の過去を。

 その暴行が原因で警察沙汰になり、家族に迷惑をかけてしまった負い目も。

 父に厳しく叱責されたショックから対人関係に難がある性格になってしまったが、それでも、もしあの時のまま成長していたとしたら、ぞっとする話だ。


「お父さん。……私、手のかかる娘でしたよね。でもっ、最後に親孝行をさせてください。貴方が望む通り……して、あげますからっ」


 まりんはそこで一旦、言葉を区切って、父に向かって右足を一歩踏み出す。

 そして叫ぶように、自分の想いを伝えた。語気の強さに比例して、身に纏った炎をより一層、強く天に立ち昇らせながら。


「殺してあげますからぁっ、お父さん! もう苦しまなくていいようにっ!」


 いつもより身体が軽く、速く動ける。まりんは拳に炎を込め、地を蹴って父の頭部の高さまで飛び上がった。

 そして顔面に向けて、後ろに引いた拳を、蓄積させた炎ごと突き放つ。


「わあぁぁぁああっ!! こなくそぉっ!!」


 紅蓮の炎が顔に直撃するも、それを強引に突き破って父は突進してくる。すでに彼の目から流れ出ていた涙は、止まっていた。

 父の形相は、ただの獰猛なキャンサーのものに戻ってしまっている。しかし、それがまりんにとっては、せめてもの救いだった。

 ただの怪物なら遠慮なく攻撃できるし、容赦なく殺せるからだ。父の鋭い爪が斜め上から一息に振り下ろされるのを、まりんはただ黙って見上げた。

 避けるまでもないと、思ったからだ。事実、今まさに叩き付けられようとする爪撃を、まりんの前に飛び出たカルジが刀で弾き返していた。

 そうなるであろうことを、彼女は予め予見していたのだ。


「遅いっ! やっとやる気になったか、東郷まりん。力を貸せ!」


「ええ、お父さんを救うために、お前とのイザコザは一旦、忘れますよぉっ」


 まりんとカルジは、並んで駆け出していく。二人は爪での反撃を警戒しつつ、巨体を誇る父へと突撃していった。それぞれの表情には、動揺や恐れは微塵もない。


「こいつの左右から、分かれて攻めるぞっ!」


「分かりましたっ! 攻撃は私に合わせてくださいっ!」


 まりんは素早く叫び返しつつ、父の右側に回り込む。カルジは左側からだ。

 狙いを左に絞った父が、長く太い左腕で周囲をなぎ払いながら、後ろに回り込もうとするカルジへ回し蹴りを叩き付ける。

 だが、強烈なその蹴りを喰らって飛ばされるも、カルジは両腕で防ぎ切っていた。

 チャンス到来だ。その隙をつき、相手へ間合いを詰めて、青い炎拳を繰り出すまりんと、父の振り下ろされた右拳とが激突する。


「あぁぁあぁっ! お父さんっ! もう楽になってくださいよぉ!」


「ぐがろおおぁぁぁっ!!」


 まりんの青い炎が右拳を突き抜け、父の背中から炎が花弁のように噴き上がる。

 確かな手応えの感触があり、優勢を悟った。父もまりんやカルジの猛攻を受け、更には露軍が投下した大量破壊兵器のダメージの蓄積で弱ってきているのだ。

 そこへ続けてカルジの刀による斬撃が、父の脇腹を斬り裂き、体勢を崩させる。

 炎に焼かれ、刀で内臓を斬られた痛みで悲鳴を上げた父が、それでも負けまいと、地面に両足で強く踏み止まり、大きく息を吸い込む。


「ぐろろろぁぁあっ! まり、いぃん! まりっ……!」


 父は憤怒の形相で、まりんの名を何度も叫び続けた。口からは血を吐き出し、その目は憎悪で濁っている。

 しかし、まりんはこの時には、もう悟っていた。この雄叫びは、父の最後の悪足掻きに過ぎない虚勢だと。

 もう自我は喪失しかかり、闘争本能だけで動いている。ならば、成長した子の務めとして、引導を渡してやるだけだ。

 濛々たる炎が、まりんの全身を覆い出していく。一部分だけではない、全身を超高温度の青い炎で包み込んだのだ。

 脅威を感じ取ったのか、父が急いで身体を後退させ、防御態勢に入る。

 そこから先は、正しく一瞬の攻防だった。拳を後ろに引き、目を見開いた彼女は、正面に全身全霊で打拳を解き放つ。


「お父さん、今までありがとう! 私、お父さんの娘で、良かったですから!」


 泣き叫びながらまりんの目から零れた涙が、風によって散っていく。

 そんな彼女の正拳から放たれたのは、青いエネルギー放射だ。それが父の元へと、強暴な炎となって襲い掛かっていった。

 しかし、父はそのエネルギー放射を、両方の掌底を合わせて受け止める。背後の地面が父に沿って崩れていくが、すべては押さえきれない。

 次第に両足が後退していき、耐え忍んでいる父の顔が歪んでいく。


「が、が……がががっがぁっ!」


 そしてある一線を越えた瞬間、放射された熱線が父を呑み込んでいった。押し負けた父の後方にエネルギーの放射線が長く伸び、大地が真っ二つに割れていく。

 しかし、まだ倒せてはいないと、まりんは熱線の中で動く気配から感じ取った。そしてやはり宙を舞う砂埃が消える前に、父がそこから傷だらけの全身を現した。

 父は残った力を振り絞り、まりんに突撃していくが、辿り着くよりも前。その脳天にカルジが、刀を突き立てていた。


「伏せろっ!」


 父の額から刀を引き抜いて、まりんの元に跳んだカルジがそう叫んだ。

 言葉に従って伏せたまりんに飛びかかり、カルジはその身体の上に覆い被さる。その体勢のまま、まりんは父が崩れていく姿を見た。

 身体のあちこちから光の束を迸らせながら、父は苦しみ悶えている。十数秒もの間、決して止まらなかった無数の光が、やがて臨界点に達した。

 瞬間、膨大な熱エネルギーが、一斉に体外へ放出されていく。まるでメルトダウンを引き起こした後の大爆発のように。


「あ、ああぁっああっ! お父さ……っ!」


「我慢しろ、このまま動くなっ!」


 天を衝き、地形が変わるほどの大爆発が終わった時、戦場に残っていたのは、焼け焦げたヒル達の群れに包まれ、うつ伏せで横たわったカルジ。

 そして彼に上から覆い被されたことで被害を逃れた、まりんの二人のみ。もうどこを見回しても、父の姿は肉片すら見当たらなかった。

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