第五章 見かけと実力、世界を変革する力その二

「安心して、まりんちゃん。これが最良の選択なんだからねっ!」


 まりんの背中にしがみ付くミリルが、耳元で叫んだ。興奮気味なのか、まりんの肌に服越しでぎりぎりと爪を立てている。

 何が最良なのだろうと思っていると、ミリルは声高らかに笑い出す。


「カルジより先に辿り着ければ、何とかなるわ。それに大佐なら、きっとあいつに手傷を負わせてくれる。もし遅れて追ってきたとしても、手負いじゃ恰好の的よ」


「よ、よっぽど嫌いなんですね、あの人のこと」


「ええ、大っ嫌いなの! これまで私が、あいつにどれだけ玩具にされてきたか知らないんでしょう!? 昔からっ、良いように弄ばれてきたのよっ!」


 ミリルは激怒した形相で、歯を食いしばりながら呪詛の言葉を吐き出す。憎い敵に、ようやく復讐する機会が巡ってきたと考えているのだろうか。

 集落の人達を守りたいのは本心だろうが、酷く個人的な理由もあるらしい。

 まりんにとっては、迷惑な話だ。その怒りと恨みを自分にぶつけられても困る気持ちが強かったが、ミリルを刺激しないよう、口にはしなかった。

 ミリルが興奮しているなら、自分だけは冷静でいなくては。今は、とにかく集落まで急がなければならない。

 下半身から後方に炎を噴出させ、速度を落とすことなく、まりんは街の上空を飛び続けた。


「皆、皆っ……無事でいてよね。あんな奴のために犠牲にならないで。今度はあっちよ、まりんちゃん。このスピードなら、そう時間はかからず到着できるわっ」


 耳元で道順を教えてくれるミリルに従い飛行していくと、やがて見覚えのある街並みが見えてきた。

 ここはまりんが、前に蜥蜴型のキャンサーに追われていた場所だ。目的地のショッピングセンターまでは、もう後僅かな所にまで迫ってきている。

 しかし、ここまでの道中、ずっと感じていた嫌な予感は的中していた。街の向こう側が真っ赤に染まり、火の手が上がっているのだ。

 そして火の手側の空に、巨大な影と無数の何かが浮遊しているのが見える。それを目にした途端、ミリルは血相を変えて漏らす。


「あれは航空母艦じゃないっ。まさかあんな物まで投入してくるなんて!」


「航空母艦って? あれが、あの島みたいなものが船なんですかっ?」


 近づけば近づく程、その威容が明らかになっていく。巨大な影に見えたものは、腹部と後部に幾つものエンジンを搭載し飛行する、横に異様に長い空母だった。

 そしてその周囲を飛んでいる数え切れない小型の物体は、戦闘用ドローンだ。下部に機銃を備え、左右には両腕となるクローが装着されている。

 黒い配色に死神のロゴマークが描かれたあれらは、デストック社製で間違いない。航空母艦が集落の上空で滞空し、艦内からドローン達を放出させていた。

 集落の人達も戦車などで応戦しているようだが、明らかに多勢に無勢。その上、兵器の性能差は歴然としており、劣勢を強いられているようだった。


「何てことなの……うちの旧タイプの兵器じゃ勝負になってない。み、皆っ……私達が行くまで死なないでよっ!」


「もうすぐ辿り着けますよっ。後少しですからっ!」


 目一杯、炎の出力を上げて、まりんは音速に達する。空を暴れ回っている戦闘用ドローン達の間を突っ切って上昇し、航空母艦よりも高い位置まで飛び出した。

 ここにきてようやく、敵艦もまりんとミリルに気付いたようだ。母艦の甲板に設置された幾つもの砲門がまりんに向けられ、照準を定め始めている。

 数え切れない戦闘用ドローン達もまりん達の四方を取り囲み、いつでも攻撃を仕掛ける用意は完了させているようだ。

 だが、どうということはない。まりんには極炎の力を全開にして戦えば、体力が続く限りどんな敵をも殲滅できる確信があった。


「ミリル、これから反撃します。一応、聞きますけど、このまま私に掴まってても大丈夫ですよね?」


「いえ、私は地上の皆を助けてくるわ。航空母艦は頼んだからね、まりんちゃん」


「……えっ?」


 ミリルは、まりんからぱっと両手を放した。当然の帰結として、彼女はそのまま重力に従い、高高度から真っ逆さまに地上に向かって落下していく。

 まりんは一瞬、驚いたが、ミリルが自殺志願者であるはずがない。事実、地面に叩き付けられた後、彼女は何事もなかったように立ち上がって動き出した。

 きっとミリルには、他人の身体を奪うだけではない秘密があるのだろう。気にはなったが、今は戦闘に専念しなければと、まりんは目前の敵に向き直る。

 狙うは、航空母艦ただ一機のみだ。あれさえ沈めれば、勝ったも同然。そう考えたまりんは迫ってくる戦闘用ドローン達を回避し、航空母艦への攻撃の機会を窺う。

 だが、しばらくして敵の作戦に気付いた。いつの間にか、自分が不利な位置に追い込まれていたことに。


「どうやら意図的に誘導されていたみたいですね……!」


 背後には鳥一匹通り抜けられない程、空を埋め尽くした戦闘用ドローンがいる。

 左右と前方の空も同様だった。そして逃げ場を塞いだ上で航空母艦の固定砲台がすべて、まりんに狙いを定めているのだ。

 誰が陣頭指揮をしているのか知らないが、敵は相当に戦術慣れしている。ただの女子高生のまりんが、戦の上手さで上回れるはずがないのは当然だった。

 ただし、敵にとって誤算があったとすれば、ただ一つ。まりんには戦術ではなく、戦略レベルの戦闘兵器に等しい能力があるということだ。

 まりんはあえて思考することを止め、能力頼みの力押しで挑むことを決める。極炎の出力を全開にし、纏った炎を周囲に限界まで広げていく。

 最終的に半径三十メートルまで広がったその炎の熱量は、戦闘用ドローンを鉄片も残さず溶解させ、その範囲を保ったまま、縦横無尽に高速で飛び回った。


「ああああぁぁっ! うあああぁっ!!」


 まりんは敵に突撃しながら、叫び続けた。どうやら能力を本腰で行使している最中は、気分が少しばかり昂るらしい。

 戦闘用ドローン達も負けじと機銃掃射や伸ばしたクローによって反撃に出るが、炎に触れただけで溶けて蒸発していく。

 攻防共に無敵の能力だと、まりんは改めて思った。ただ一点を除いては。


「はぁっ、はあっ……こいつら、どれだけいるんですかぁ! 多すぎますよっ!」


 極炎の能力の唯一の弱点、それは燃費の悪さだった。能力を全開で使うと消耗が激しく、空を飛び回っていたまりんは息切れを起こしている。

 かといって、今能力を弱めれば、無防備のまま集中砲火を受けてしまう。気力で能力を維持しつつ、速戦で終わらせるべく、今度こそ航空母艦に突っ込んでいった。

 だが、時を同じくして、航空母艦の甲板からまりんを狙って砲弾が発射される。全砲門から無数の砲弾が放たれ、空中を飛び交う。

 纏っている炎の防御壁がすべてを防いでくれるが、着弾と共に次々と爆発し、次第にその凄まじい弾幕に押され始めた。

 まりんが堪らず攻撃の手を止め、進むのを諦めざるを得ない程だ。一撃一撃、痛みこそないものの、被弾の度に軽い衝撃が襲い掛かってくる。

 蓄積していけば馬鹿にならない。しかも、疲労に伴って周囲に展開した炎のフィールドの範囲が狭まり始めた。


「う、ううぅぅっ……! こ、これくらいでぇっ!」


 いくらまりんが歯を食いしばって耐えようとしても、二十メートル、十メートルと広げた炎の防御壁の半径が縮小していく。

 一方、砲撃の勢いは一向に弱まらない。このまま攻撃を浴び続ければ負ける。だから彼女は、一時的に退避すべく全身から力を抜き、重力に身を任せた。

 そしてみるみる近づいてくる地上に視線を向けると、集落の男達が動きを止めて、その場に蹲っているのが見える。負傷したのだろうか。

 助けられる命なら助けようとしたが、様子がおかしかった。彼らは虚ろな目をして、一部の戦闘用ドローン達は制御を失ったように、同士討ちをしているのだ。

 男達の先頭にはミリルが立ち、襟を手で下して火傷痕を見せている。地上にいる彼女との距離が縮まっていく程、まりんも頭がふらつくのを感じた。

 しまいには下半身から炎を噴出させ、落下の勢いを殺しながら彼女の側に着地した途端、まりんは意識が遠のきかけてしまう。


「ミ、ミリルっ! 一体、何をしているんですかっ!?」


 まりんは、ミリルを問い詰めるように叫んでいた。あの火傷痕、初めて見せられた時から、言いようのない不思議な吸引力を味わったのを憶えている。

 やはり、あの火傷痕には秘密があるのだと確信させるには十分だった。


「あの航空母艦を倒せなかったの、まりんちゃん?」


「え、ええと……それは」


 ミリルは質問に答えず、逆に質問で返してきた。自分の力不足が事実であるだけに、まりんは言いよどむ。

 しかし、ミリルは機嫌を悪くして責め立ててくることもなかった。晒していた火傷痕を再び襟で隠すと、まりんに声をかけてくる。


「前に見せてくれた君の極炎、あんな程度じゃなかったでしょ。きっと本来の身体じゃないから、かな? 私だって身体を奪ってからしばらくは、不調が続くしね」


「そ、そうなんですか?」


 まりんは、ミリルから自分の炎が天候を変えたと聞かされてはいた。しかし、能力を使い慣れていない暴走状態の時だったためか、それをやった際の記憶はない。

 もしそれが事実ならば、今の身体では、炎の能力を完全に引き出せていないということだ。

 まだ可能性があるのなら、もう一度、あの航空母艦に挑んでみたいと思えた。

 ただし、そのためには元の自分の身体を取り戻す必要があるが……。まりんは言葉には出さず、ミリルの顔色を窺った。

 すると、その意味を汲んでくれたのか、ミリルは笑いながら即答してくれる。


「いいよ、まりんちゃん。君の身体を返してあげる。そろそろ私にも憑依能力が戻ってきているみたいだしね」


「ほ、本当ですかっ!?」


 まりんは嬉しさを隠すことなく、パッと明るい笑顔で返事を返す。だが、それに対してミリルは、どこか悪戯っぽく含み笑いをしている。


「うん、本当に本当だよ。じゃあ、始めるけど、いいかな?」


「あっ……。じゃあ、またミリルと……」


 まりんはすっかり忘れかけていたが、遅れて意味を理解した。ミリルはまた自分と口づけをする覚悟を決めろと言っているのだ。

 彼女の憑依能力は、性的接触をスイッチとして発動するのだから。

 まりんは、自分が同性愛者ではないと思っている。だが、不覚にもミリルの美貌に心が高鳴ったのは紛れもない事実だ。

 もっとも、今はまりんが元のミリルの外見をしているのだが、ややこしくなるため、深く考えることは止めた。

 何にせよ、本来の自分の身体は取り戻さないといけないのだ。


「い、いいですよ。始めても……」


「うん。じゃあ、いくね、まりんちゃん」


 言うや否や、ミリルはまりんの唇を塞いで抱き締めた。そして口の中で舌を絡め合わせ、恍惚の表情を浮かべている。

 だが、まだ憑依の能力は発動していない。十数秒が経過し、さすがにそろそろだろうかと目を瞑って耐えていると、まりんはミリルに地面に勢いよく押し倒された。

 まりんは、驚いて目を見開く。後ろで蹲っている男達はこの光景が見えていないかのように、涎を垂らして茫然とした表情で、まったく反応すら見せない。


「私ね、自分を含めたすべての生物の魂を操れるの。他人の身体を奪うのは、その一端に過ぎないのよ。君も私に従いなさい、まりんちゃん」


「や、やっぱり……貴方って人は、どこまでも……っ」


 ミリルは背筋が寒くなる程、冷たい目をしている。また騙されてしまったのかと、まりんは悔しくて唇を噛んだ。

 こうして舌を入れられながら、意識が混濁し始めてきている。そして心の奥底から湧き上がってくるのは、ミリルへの敬愛、尊敬、恋人に向けるような恋愛感情だ。

 抗おうとしても欲求に負けてしまい、身体が従ってくれなかった。このまま抱かれ続けたくて、すでにそんな気など起こせなくなっている。


「あ、ミリル……好、き……っ」


「ええ、私もまりんちゃんのことが大好き。だって、恋愛対象は女の子だもん」


 また嵌められた。まりんの理性は、まだ辛うじてそう考えることができた。

 やっぱりこの女は、隙を見せたらどこまでも人を意のままにしようとしてくる。一度騙されているのに、どうしてまた無防備を晒してしまったのか。

 まりんは自分の迂闊さを呪うも、もうどうにもならないと気付いていた。本能がすでに彼女の魅惑に屈服してしまっているのが分かっていたからだ。

 諦めてこのままミリルの求めに応じようと目を閉じていると、ふいに彼女が自分から離れたのを感じた。


「え……? ど、どうして」


「はい、もう終わったよ、まりんちゃん。これで元通りね」


 ミリルの声……? いや、今のは声が違うと、まりんは思った。

 恐る恐る目を開けてみれば、そこに立っていたのは地面に寝転がる自分を見下ろしている美しい西洋人の顔立ちと、肩までかかるストレートの銀髪をした女性だ。

 その彼女が今、手で下している襟の隙間からは、あの拳大の火傷痕が見えている。


「ミ、ミリル……? あれ、じゃあ、私は……」


 まりんは立ち上がると、慌てて自分の手を確認してみる。爪の形も指の長さも、生まれた時からずっと見慣れている、いつもの両手だった。

 そして服装も、あの時にミリルに選んでもらったコーデ。続けて頭を手で触ってみれば、黒毛のショートヘアだって普段の自分自身のものだ。

 首元を確認しても、先ほどまでこの身体にあった火傷痕は消えてなくなっていた。

 つまりミリルとまりんの身体が、元に戻っている。こうなることを望んでいたはずが、まさかの展開に思わずミリルの顔を見つめた。


「どう、調子は? これで本来の力が戻ったんじゃない?」


「え……そ、そうですね。でも、何でですか……」


 ミリルは笑いかけながら、まりんの額を軽く指で小突いた。その目と笑みからは、さっきまでの冷徹さと魔性は消え失せてしまっている。


「ふふふ、意外だった? 二度も裏切ったら、君の信用を完全に失うでしょ。私、そこまで性根が腐ってないつもりなんだけどなぁ」


「じゃ、じゃあ……! からかってたんですね、私をっ」


 まりんは顔を紅潮させて抗議するが、ミリルは愉快そうな笑みを崩さない。そんな怒気を帯びた視線など軽く流して、まりんの両肩をがしっと掴んで言った。


「さあ、これで準備は万端でしょ。地上は私が何とかするから、君は上空に居座っているあのデカブツを頼んだからね」


「も、もう……! 分かりましたよぉっ! でも、こんな緊急時にからかうなんて、私も頭にきましたからっ!」


 まりんはミリルの手を振り払って、諍いによる不満を頭の隅に追いやった。

 現在の戦場周辺には、ミリルの能力である、他者の魂を操る力の影響が出ている。行為の最中も、そして今も戦闘用ドローン達は味方同士で潰し合っている。

 しかし、空にはまだ航空母艦が陣取っており、戦況は依然予断を許さない。まりんは人的被害を最小限に抑えようと、一気に勝負を決めるべく上空を見上げた。


「さて、今度こそいい加減に終わらせないといけないですね……」


 先ほどは慣れない身体のせいでスタミナが続かずにやられてしまったが、今は体力はすっかり元通りに回復したし、すこぶる調子が良い。

 今度はあの時のようにはいかない。必ず上手くやる。まりんは自分に発現した能力本来の真価を発揮するために目を軽く閉じ、集中した。

 全身に薄く炎を覆わせると、熱によって空気が変わり、空間までが歪む。ただその場に立っているだけで、周囲を圧する程に。

 これから何をすればいいかなど、考えるようなことじゃない。ただ標的に向かって、ありったけの炎を放てばいい。

 まりんは閉じていた目を、大きく見開く――と、共に力をすべて開放する。

 瞬間、彼女を中心として赤い熱風が四方に広がり、ミリルや集落の男達の身体、そして戦闘用ドローン達の機体を突き抜けていく。


「あ、あああぁぁっ! あんなもの! ぶち抜いて、あげますからぁ!」


 まりんの叫びに呼応し、上空を覆っていた雲が消し飛ぶ。更には場の色彩が赤く染まり、音が消え、降り注いでいた雪がピタリと止んだ。

 極炎の真髄は、またも天候にまで影響を及ぼした。そして彼女は全身に纏っていた炎を拳一点に集め、それを頭上に突き上げる。その動作によって静寂が破れた。

 超高温のエネルギーを伴った極太の光線が航空母艦に向かって放たれ、通過途中にいた戦闘用ドローン達はすべて、触れた途端に消失――。

 そのまま閃光は航空母艦へと直撃し、機体の半分を吹き飛ばしてしまった。艦内の至る所で爆発を誘発させ、大きく傾いた機体は地上へと落下し始める。

 次はあれが墜落した際の被害を防がないといけない。まだ戦いは終わっていないと判断し、まりんは地面を蹴って跳んだ。


「もういっぱぁぁつ! いきますよぉっ!!」


 まりんは下半身に加えて下方に向けた右拳からも炎を放出し、一段と加速する。猛スピードで地上から離れていき、今まさに墜落中の航空母艦へと迫っていく。

 これからもう一度、特大の極炎をお見舞いしようとしていた矢先、声が響く。しかも、つい先ほどまで戦いの最中に何度も聞いた、あの男の声が。


「東郷まりん、素晴らしい逸材だ。もう集落の人間になど興味は失せた。お前さえ俺の同志になれば、俺達は、世界をキャンサー共から人の手に取り戻せるぞ」


「カ、カルジっ! どこにいるんですかっ!?」


 航空母艦から聞こえてきた気がするが、カルジは大佐と戦っているはず。もし万が一、決着がついたにしても、距離的にまだここに辿り着ける訳がないのだ。

 湧き上がる疑念の答えを探していると、炎上している航空母艦の甲板から夥しい量の赤い水が噴き出し、飛び散った。

 不気味でグロテスクな、あの液体には見覚えがある。カルジが能力で操っていた、無数のヒル達の集合体だ。

 もしかすると、離れた位置から遠隔操作も可能なのかもしれない。だとしたら、かなり高性能な能力だと思った。


「これまでずいぶん準備に時間をかけてきたが、もう待ちきれん。俺はこれから北海道に向かう。お前も俺の後を追ってこい、東郷まりん。さもなくば……っ」


「許しませんからっ! もし集落に手出ししたら、私が貴方を倒しますっ!」


 まりんは再度、力を全開放する。両手を大きく広げて手の平に極炎を溜め、頭上でそれを合わせて突き出しながら、一気に突進した。

 まるで肉弾のドリルだ。両腕を使い、身体に回転を加えることで威力は倍増。自ら高エネルギー体となったまりんが、ヒル達と航空母艦を呑み込み、レーザーのように貫いた。


「東郷、まり……待ってい……っ」


 ヒル達の集合体が閃光の直撃を受けたことで、カルジの声が途切れる。

 その熱量は接触しただけで、ヒル達と航空母艦の巨大な鋼鉄の機体を、肉片一つネジ一本すら残さず蒸発させ、跡形もなく消滅させた。

 完全勝利。まさにその四文字が相応しい非の打ち所がない完勝の後、まりんは全身から炎の勢いを失って地上へと落下していく。

 しかし、弱まる炎とは裏腹に、その顔にはやり遂げた笑顔が張り付いていた。

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