第2話 豚伯爵

 男は17歳まで成長した。両親は典型的な貴族で,見た目がどうなろうと綺麗事を吐けば勝手に納得してくれたのでフランシスにとっては楽な相手だった。フランシスのお小遣いは,幼少期から多く様々なモノが買い与えられたのでフランシスの計画は順調に進んでいた。しかし,問題もあった。

「態々,明るい未来のために女を無理やり抱くのはなぁ…」

 腐っても現代日本の倫理観は沁みついている。簡単に悪評をばら撒くのなら適当に女を襲えばいい。幸いなことに元ネタが抜きゲーだ。殆どが美形でありスタイルも良い。だが,フランシスには安易にその行動をとることは出来なかった。

「梅毒とかあっても面倒だな」

 性感染症は脅威である。明るい未来のための行動で,お先真っ暗になるのは笑えない冗談だ。何より,用意した着ぐるみの関係上性行為は必要以上に体力を使う。性行為中はどんな人間でも無防備であり,容易に暗殺出来てしまうのもフランシスにとっては問題だった。権力者が娼館を盗聴し情報収集したのも納得である。

 着ぐるみの問題ではあるが,フランシスが用意したのは豚の皮をツギハギにして贅肉部分はファンタジー特有のスライムを詰め込むことで誤魔化してある。見た目はそれはもう見紛う事なき醜い男ではあるが,見た目に拘るあまり関節部のスライムが互いに干渉し思うように動けなくなってしまった。無理に動かせば継ぎ目の部分からスライムの汁が溢れ出し,最終的には裂けそうになる。耐久性と,適当な悪事を働く時の動きやすさがフランシスの当面の課題だった。

 中に付ける仮面も問題だった。目元しか隠さない仮面は,変態だったり裏切ったり人の総意になったり扉になったりするのでフランシスは却下した。扉を開く気は毛頭なかった。顔を覆うような騎士の兜を採用しようと考えたが,難航した。既に着ぐるみを着ているのに中で更に仮面を被る。呼吸のしにくさや視界の問題,水分の塊であるスライムに長時間触れ続けても問題のない素材の選定。要は,現在の技術的に厳しかった。フランシスもこればかりは時間をかけるしかないと諦め,懇意にしている鍛冶屋や加工屋に対して定期的に資金援助することでスライムにも負けない,最終的には表で使うことになる仮面の生産を依頼した。

 結局フランシスは良い案を思いつくことは出来なかった。精々,有り余る金を使って態と悪評を広まらせるくらいだ。それも,信ぴょう性は殆どない。ありもしない事件を風潮しても意味は無いのだ。しかし,やらないよりはマシであるため時折女を雇っては娼館などに悪評をばら撒くように依頼している。不思議そうな顔をするが,金をもらう以上仕事は熟していることは子飼いの部下に確認させている。

 フランシスは表向き,親の金で贅沢三昧を行っている。当然,教育機関などには行っていない。家庭教師を雇い,勉強している。勉強するのは他国との歴史や,食文化といったもの。訝しむ家庭教師を金貨に物を言わせ口をつぐませる。こういった行動は早めにしておこう。なんなら,他国に詳しい傭兵やら人間を雇い情報を仕入れるのもアリではないかとフランシスは考えた。しかし,この貞淑とか操を立てるとか倫理観とかに対して喧嘩を売っているような世界で容易に人間を信頼することは出来ない。結局,信頼できる部下もおらず孤軍奮闘で亡命計画を練るのだった。


~~~


「豚伯爵?」

「聞いたことない?王都では結構有名な貴族なんだけど」

 王国の中心部,王都に存在する学園にて男子1女子3のグループ内で,そんな話題が上がっていた。彼らこそ,この抜きゲー世界の主要キャラであり,NTRされる主人公とヒロイン達である。この話題はフランシスは金ででっち上げただけで深く調べられればどこかで矛盾が生まれる程の噂であり,信ぴょう性は皆無である為,市井では広がっても貴族間ではあまり効果が無いだろうと考えていた。

 しかし,彼は1つ大きな見落としがあった。この世界が,抜きゲーであることだ。いや,彼からすればそれも考慮してこの行動を起こしたのだろうが抜きゲーの世界は彼の想定の何倍もヤバい存在だった。噂の裏取りなんてしない。ただ,噂を鵜呑みにするだけの者達しか王国には存在していなかった。そうでもなければ,簡単に貴族が股を開くものか。

「そう,なんでも恋人がいる女の人を強引に屋敷に連れ込んだりしているらしいです」

「あ,あと,好みの女の人を見かけると攫うって噂も聞いたことあります」

「そんな危険な奴が此処にいるのか⁉」

 驚いた男の名前はエルビオ・ルーサット。ゲーム上でもこの名前は固定だ。才能の塊のような男で,やればやる程成果を出す。しかし,夜の方はクソ雑魚ナメクジ,スライムにも劣るレベルでありどれだけ頑張ったところで,ヒロインは寝取られ自身の分身を口汚く罵られる運命にある。製作者は才能あるイケメンに何か恨みでもあるのだろうか。

 豚伯爵の噂を出した少女の名前は,エルザ・サンテス。赤ともピンクともとれる長髪と凹凸が激しい訳ではないが,出るところは出ている体系をしている。彼女はサンテス公爵家の令嬢であり,抜きゲーにおいてチュートリアル感覚でNTRされるキャラである。良くも悪くも箱入り娘であり,話を鵜呑みにしがちであり勝気ではあるが,男性に対して強く出れない少女だ。そこを付けこまれ,主人公のある事無い事をしている噂を信じ込み勝手に失恋し,心の隙間に入り込んだフランシスによって寝取られることとなる。

 そんなエルザの護衛を行っているライラ・ミリアリア。常に敬語を心がける女性であり,密かにエルビオに想いを寄せている。しかし,彼女は雇い主であるサンテス公爵家の政敵の策略によりフランシスの奴隷に堕ち,そのまま動物と交わらされることになる。

 その他の噂を出した少女は,クレア・ブリッツ。敬虔な教会のシスターであり,実年齢より下に見える程幼い雰囲気を醸し出す少女だ。彼女も,教会の腐敗した司教の裏取引によってフランシス(正史)の元に渡り薬漬けにされ玩具の様に扱われることになる。

 彼女たちとの会話でエルビオは,もし目の前にその男が現れたら成敗してやろうと心に誓った。それはそうと,自身が大切に思っている少女たちとの時間を大切にしたいと思うのだった。

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