第3話 スウェーデン人はザリガニ食べるって本当なんですか

 エンジンスロットルを全開にして、ブライトルに引っ張られ発艦する。

 低速ながらも素直にやがて上昇する。

 誘導に従い、進路を変えていく。

 

 かつて英国海軍の艦隊防空戦闘機として主力だったシービクセンでも、古くなった今の仕事は雑用が多い。

 今回は、仲間のグリペン達に燃料を届ける仕事だ。グリペンの航続距離が短いのではない。任務のために燃料を多く積まずその代わりに武装を多く積んだからだ。グリペンに限らず、このような運用ではどんな機体でも燃料は不足する。

 

 先に発艦していたバッカニアに並び、グリペンの元へ向かう。

 シービクセンとバッカニアは、右翼側に空中給油ポッドを装備することが出来る。重要な任務は最新鋭かつ高性能で多機能なグリペンが担うことが多く、その補助をシービクセンやバッカニアなどの古い機体で行っている。

 

 その後グリペンと合流。

 オブザーバシートに座る高宕が、左側にあるコントロールパネルで空中給油ポッドを操作する。右翼に搭載されたポッドからドロークが伸び、プローブを出したグリペンがゆっくりと近付いてくる。

 接続したら、オブザーバが給油を開始する。あとは、設定した量が自動的に送られる。

 

「スウェーデン人はザリガニ食べるって本当なんですか」

『あーそうだね。食べるね』

 蒼樹がふと聞いたのを、グリペンに乗るスウェーデン人パイロットが答えた。

「美味いんですか?」

『普通に美味いよ。味は蟹で食感はエビって具合で。日本人は食べないか』

 オブザーバ席から高宕の笑い声が聞こえる。

「さっき話してたら気になってるみたい」

『日本人、いろいろゲテモノ食うくせにザリガニは食わんの』

「ゲテモノ?」

『めかぶとか』

「めかぶはゲテモノじゃないでしょぉ。え、めかぶいつ食べたんですか?」

『前に、納豆と一緒に出された。あと塩辛とかね』

「それはもうハイレベルだから。日本人でも好き嫌い別れるやつだから。あ、給油終わりましたよ」

『はいどうも』

「じゃあお気を付けて」

『そっちも、帰り気を付けて』

 

 グリペンが少し離れ、右にバンクしてからフレアを一つ落とす。

 左側で待機していたもう1機のグリペンが後ろに付いたら、同じ作業を繰り返す。


 その給油も終わったら、任務へ向かうグリペン達を見送って、僚機のバッカニアと母艦への帰路に付く。

 バッカニアの熟練パイロットが「ここだけ見たら冷戦みたいだ」と笑った。まるで嫌な冗談のようだが、あながち間違いではない。

 

 現在、何故こうもグリペン達が忙しなく飛んでいるのか。

 この世界の、とりわけNATO関連国の軍が駐留してる地域では、とある2つの勢力が睨み合っている。

 現在、その監視や難民支援などで忙しい状況が続いている。


「何も起こらないといいね」

 グリペン達は、現在緊張が高まっている国境地帯の偵察へ向かったのだ。

 仮にもし何かが起これば、バッカニアが爆装し、シービクセンもバッカニアの支援のために出撃する。

 東西冷戦が終わりその時は一度の実戦も経験しなかったシービクセンであるが、一度地球を離れるとそうもいかなくなるらしい。

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異世界シービクセン 竜田川高架線 @koukasen

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