第39話 日輪隊とは

俺の前にはエンリに連れてこられた日輪隊がずらっと並び整列していた。




「よく来たな、お前ら。今回の戦闘はハーネスからの指示じゃなく俺の我がままだ。それでも命を賭けられるか?」




「当たり前です!」


「なんでも命じてください!」


「俺たち日輪隊はシド隊長の直属の部下なんですから」




少しは嫌がると思っていたが、全員が嫌そうにせずに俺の命令を待ってくれているのを見て、単純に嬉しかった。俺はいつだって自分勝手に日輪隊の連中をコキ使ってるだけなのにどうしてこいつらはこんなに俺を慕ってくれるのだろう。




「戦場でのお前は日輪隊の太陽なんだよ」




俺の心なんて簡単に読んで横でアリスがサムズアップをする。




「さて今回の敵はこの国だ。国の頭はニールってやつにすげ変わった。まあ実際それはどうでもいい。最近はクーデターが流行ってるらしいからな。そういう時代なんだろう。まあ勝手にやってくれって感じだ。問題はこのニールって男が間接的にだが副長アリスを自分のものにしようとしたことだ」






ピリッ!






一瞬で日輪隊の空気が変わる。




「隊長、そのクソは五体満足でいるんでしょうか?」




「ああ、そしておそらくまだアリスを諦めてはいないだろう」




「「「「抹殺しましょう!!!!」」」」




一気に盛り上がったな。アリスはああ言ったがこの隊の太陽はアリスだと俺は思う。




「それだけじゃねーぜ!敵はシドを猪口才な手でしばらく寝こませやがった!だから絶対許すんじゃねぇ!」




と思ってたら今度はアリスが隊員たちを煽りだす。この副長マジで自由だな。




「「「「隊長が!?」」」」




「だが次はねぇぜ!シドがぜってーぶっ倒す!」




「「「「おおおお!!!」」」」




うーんと何この感じ。まあいいか。




「とりあえず力を貸せ、お前ら!敵の頭は俺が燃やす」




「「「「うおおおお!!!!」」」」




「じゃあ始めるぞ。楽しい楽しい国盗りの時間だ」






*






マルグ上層部は混乱していた。前体制から実権を奪い、やっと落ち着きだしたといったところだったのに国外の勢力が攻めてくるとは夢にも思わなかったからだ。




そして何よりも彼らを驚かせたのは日輪隊の強さだった。




「落ち着きなよ」




だがそんな彼らの混乱をニールは一言で抑え込んだ。別に何か戦況を変えるような策を言ったわけじゃない。全員の心に火を灯すような檄を飛ばしたわけでもない。ただ普通に落ち着けと言っただけだ。だがその言葉には妙な説得力があった。ニールの言葉からハッキリと感じられたからだ。彼はこの状況を些細なこととしか思っていないと。




そして気づく。いつの間にかニールの後ろには6人の男女が立っていることに。




「彼らが抑え込みます」




「だ、誰ですか!その得体のしれない者たちは!」




驚いた者たちが声を上げる。だがそれはすぐ静かになった。




『黙れ。従え』




「「「「「、、、、はい」」」」」」




ニールの言葉を聞いた家臣たちは目の光を失い、ニールに跪く。




「じゃああとは頼みますよ?害虫を排除してください。そのために雇ったんですよ、あなた達『黄金十二宮』を高い金を払って6人も」




「わかってるさ。こっちもガルズを運営していくためにまとまった金が必要だったんでありがたかったよ。持つべきものは幼馴染だな」




「久しぶりですね、ライブラ。愚兄はどうしました?」




「殺した」




「そうですか」




「俺が憎いか?」




「まさか!清々しましたよ!少し報酬に色を付けましょう。イリエは虫唾が走るほど殺したい男でしたが、殺したところでなんの得にもならないし、そのくせ労力はひどく掛かる。本当に嫌になる男でしたから」




ニールは珍しく心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。




「お前のそんな笑顔を見るのは初めてだな」




「それはそうとライブラ。そちらの国盗りもうまくいってよかったです」




「だがあいつらと戦うことになるとはな」




「しょうがありませんよ。太陽と月は記憶を失っていますから。でもまあいいじゃないですか。また出会ったころのように遊べるんですから。これから始まる本当の戦いの余興にはぴったりです」




「それならお前がやらなくていいのか?」




「僕は能力上、0か100しかできませんので彼らを殺してしまいます」




「お前が殺されるんじゃなくてか?」




「本来の力を取り戻しているならそうかもしれませんが、今の段階では二人とも記憶だけじゃなく力も失っていますから」




「まあいい。殺すんじゃなくて追い払うなら俺の方が適任だな」




「はい。お願いします」




「ああ、あいつらが目を焼いたのは俺たちのためだからな」




「まあ僕はそこには大して恩は感じてませんが」




「お前らしいな」




ニールとライブラが暢気に話している間にも日輪隊の侵攻は更に勢いを増していた。




日輪隊は4隊に別れ、四方からマルグを攻めていた。一番隊は正面からゆっくりと侵攻している。率いるのはシドとアリス。アリスは副官なので本来なら隊を率いらせるのだが、どうしてもシドから離れたくないと暴れたからしょうがない。




東方から攻めるのはゲイル率いる2番隊。




「シド様に勝利を捧げろ!お前たち!!!」




「「「「おおおお!!!!」」」」




シドを心の底から崇拝しているゲイルの影響を受け、彼が率いる2番隊の隊員も日輪隊の中でも特にシドに心酔している気がある。




西から攻めるのはエンリ率いる3番隊。バランスのとれたいい隊だが、いまいち突破力に劣っていた。だが今回に関しては違う。3番隊に配属されたマーナが圧倒的な力で先陣を切り開いていた。




「マーナ!ちょっと待ってって言ったでしょ!!」




「うん、だからちゃんとちょっと待ってから全速力で攻め込んだ」




「いや、そこで全速力だしちゃったらちょっと待った意味なかったですから!というかちょっと待ってとは言いましたけど本当にちょっとじゃないですか!」




「ちょっとはちょっと。というかちょっとがちょっとゲシュタルト崩壊」




そんな感じでちょっと噛み合ってない二人だったが案外順調に進軍していた。




そして最後の4番隊は1番隊の逆で裏から攻めていく部隊だ。率いてるのはミル。隠密に特化した連中が集まっている。そしてシドとアリスを崇拝しているのはもちろんだが、この隊はミルファンクラブという側面もある。




「皆!こっそり入ってやっつけるの!」




「ミル様!あまり前に出過ぎないでください!梅雨払いは私たちがやりますので!」




「ミル様!こちらでお菓子を食べていてください!」




「今日はチョコレートケーキとチーズケーキを用意しております!」




「もちろんカレーライスもございます」




「やったー!なの!おいしいの!」




彼らはミルの笑顔をみてこれ以上ないほどの幸せを覚える。






そんな4番隊の前に一人の男が現れる。黄金十二宮、宝瓶宮のアクセルだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔法の才能がなく火だるまになることしかできないけれど、そんな俺を慕ってくれる天才幼馴染と生きていきます 目目ミミ 手手 @mememimitete

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ