第38話 シドの敗北
「おい、お前なんで死んでねーんだよ。お前のせいで死ぬことになった浮浪者たちに悪いとは思わねーのか?」
「殺したのはお前だろ」
「殺さなきゃいけなくなったのはお前のせいだろ。さっさと死ねよ」
「記憶を失ってもそういうところは変わらねーのな」
「何言ってるかわからねー。さっさと死ね」
―闘炎気―
本気の一撃だった。
「避けてんじゃねーよ。冷めるじゃねぇか」
「冷めてるようには見えないけどね」
クソ野郎は俺の攻撃は防いだがフードまでは守れなかったらしい。焼き焦げたフードを脱ぎその姿を現す。
「男前じゃねーか。斑な毛色も似合ってるぜ」
「挑発のつもりか?」
「いや全然。ただの感想だよ。殺すけどな」
「やはり君はいっつも僕の計画を台無しにする。うーん、退いてくれないか?」
「退いて俺に何の得があるんだ?」
「殺さないどいてあげるよ」
「ははは!面白いこと言うな。遺言はそのこっぱずかしいのでいいんだな」
―闘炎気 獄―
「はぁ、相変わらずバカな男だ」
―ブラック アウト―
「はぁ!?」
その瞬間に俺の意識は閉ざされた。
*
目が覚めるとマルグという国はニールという斑の毛色をした獣人のものとなっていた。男の名はニール・ガウル。出生、その他諸々不明。だがそんな得体のしれない男が国の長となったことを国中が喜んでいるようだ。
「シ、シド?」
起きてすぐに新聞を読んでマルグの状況を確認していた俺にアリスが珍しく大人しく話しかけてきた。
「負けたんだな。俺は誰にも負けないと思ってたのに、完膚なきまでにやられた。どう負けたかさえ理解できないほどに」
「シド、、、」
「アリス、俺は少しは強くなったのか?」
「シドは―
「お兄ちゃんは強いの!凄く強いの!」
「隊長は最強です!今回の負けは我々日輪隊の責任です!隊長の戦いを援護できませんでした!次こそは日輪隊で勝ちましょう!」
ミルとエンリは泣いていた。泣くほどのことじゃないと思いながら、泣くほどのことをしてしまったんだとも思った。
「シド!お前は強いし、もっと強くなる!俺と一緒にだ!」
アリスは精一杯笑って俺の手を握り締める。
「ああ、そうだな。愛してるよ」
「ええ!?いきなりなんだよ!わかってるよ!」
「シド兄ちゃん!ミルは!?」
「愛してる。エンリもだ」
「も、勿体ない言葉です!」
「日輪隊を呼べ。この国を落とすぞ」
俺の言葉に一瞬エンリが固まる。
「は、はい!今すぐに!」
だがすぐ嬉しそうにエンリは駆けだして行った。
この前までニールは個人だったが、今は国だ。国と戦うなら俺一人じゃしんどい。あいつらの力がいる。そしてこいつも。
「おい、ゴウズ。お前も来るか?」
部屋の隅に立っていたゴウズに声をかける。
「この国と、いやニール・ガウルと戦うのであれば付いて行こう」
「なら決まりだ。俺たちはこの国を落とす。だがそのためには俺の部下たち日輪隊の力が必要だ。そして俺の体力の回復もな。だからゴウズそれまで俺たちを守れ」
「清々しい命令だな。お前たちを守り切るのに俺は多分すべての力を使うだろう。きっと本番の戦闘では力になれない。それでもいいか?それでも勝ってくれるか?」
「勝つ」
「了解した」
*
ニールが支配してからマルグの政治は大きく変わっていった。何よりも顕著なのは残党狩りである。前国王派の人間たちは指名手配となり追われることになった。俺たちもそうだ。
俺たちは郊外にゴウズが持っていたセーフハウスに身を寄せていた。
しばらく寝かせてもらっていた俺はやっと回復して起き上がる。
「ふぅ、大分回復したな。っていうかお前は何をやってんだ?」
目が覚めるとなぜかアリスが裸で抱き着いていた。
「あん!?見て分かんねーのか?ずっとシドに抱き着いてたんだよ!」
「いや、だから何で抱きついてんだって聞いてんだよ!」
「そんなもん決まってんだろ!大好きだからだ!」
「それ言われたらもう何にも言えねーじゃねーか」
「シドは?シドは?」
ニヤニヤしながらアリスが詰め寄ってくる。
「だ、大好きだよ!」
「それだけか?」
「愛してる!一生愛してる!」
「へへへ。それでよし」
アリスのニヤニヤがいよいよニヤニヤの域を超えだしたころ、部屋の扉が開かれる。入って来たのはミルだ。
「お兄ちゃん!元気になってよかったの!そしてもちろんミルも愛してるの!」
そう言ってミルも抱きついてきた。
二人の相手をそれなりにしてから現状の確認を行う。
「ゴウズは?」
「あいつは敵の目をここに向けないために頑張るって言って出てったぜ」
「俺が眠ってからどれぐらい経ってる?」
「3日ぐらいなの!」
「アリス!日輪隊は?」
「今日の夜には到着するらしいぜ!」
「そうか。アリス、ゴウズと連絡とれるか?」
「ああ、出来るぜ!」
「じゃあ後は俺たちに任せて撤退に移れって言っといてくれ」
「お安い御用だぜ!」
「さーて戦の準備を始めるか」
「待って。私も行く」
部屋の隅にいたマーナが真剣な目つきでやってくる。
「手を貸してくれるのか?」
「私たちは親友。ならば当り前」
「はは、助かるぜ」
「うん、助ける」
マーナは拳を握り締めてやる気を出す。
「シド!そう言えばメリダから話があるって連絡が来てたぜ!」
マーナの横からまたアリスがグイっと顔を出す。
「繋いでくれ」
「お安い御用だぜ!2」
レベルの上がったアリスの通信魔法により、俺とメリダの会話が可能になる。
「なんかようか?」
「おい!シド!エンリからマルグを落としに行くと聞いたが何をやっている!?」
「別にいいだろ?アレは俺の私兵だ」
「そうじゃなくて潜入捜査に行ったお主が何で国を落とすとかいう話になっているのかと聞いておるのじゃ!」
「ムカつく奴いた そいつ国取った ムカつくからぶっ壊す。オッケー?」
「オッケーなわけあるか!結局ムカついただけじゃろうが!そんなんで国を落とそうとすな!」
「俺はそう言う男だ」
「はぁ、どうせアリスかミルに何かされたとかそんなのが理由じゃろう」
「ちゃんと俺を分かってんじゃねーか」
「、、、死ぬなよ。それだけは許さん!絶対に帰ってこい!」
「うまいもん用意して待っててくれ」
「わかった」
「じゃあな」
「ああ」
「心配かけて悪いな」
「ふふ、今に始まったことではないわ!」
メリダと話している間にアリスはゴウズに撤退の命令を出していたようで、日が落ちかけたころ傷だらけのゴウズが戻って来た。
「その傷でよく生きてるな」
「頑丈さが取り柄なんでな」
「ありがとな」
「感謝などいらない。俺が欲しいのは勝利だけだ」
「任せとけ」
「じゃあ少し休ませてもらう」
アリスの回復魔法で傷は治したが3日3晩戦い続けた疲労までは回復することはできず、ゴウズはそのまま倒れるように眠りについた。
「起きた時には枕元に国を置いといてやるよ」
そしてその夜、遂に日輪隊が到着する。
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