第37話 黒幕の炙り出し

あれは学園に入学してしばらく経った頃だ。セレスの前に一人の男が現れた。




「初めまして、セレス様。私はあなた様のお力になりたくて参上したものでございます」




得体のしれない者が公爵家に入り、子息であるセレスに謁見できることなどまずありえない。だがその男は公爵家の筆頭執事に案内されてやって来た。執事が言うには高名な魔術師で間違いなく、セレスのためになるとのことだった。




「セレス様、あなた様はこの国をしょってたつお方です。平民に舐められてはいけません。ですが現段階ではシドという男はあなた様の力を上回っているかと」




「なんだと!」




「ご自分でも感じているのでは?」




「くっ!」




「ただ私は現段階ではと申しました。あの男がこれ以上強くなるとはありません。なぜならただの平民だからです」




「そ、その通りだ!どんな方法を使って強くなったかは知らないが、結局魔法は自分の才能以上の力を得ることはできない!」




「そうです。ですが1秒たりとも長くあの男が偉そうにするのは貴族として許せないはずです」




「・・・」




「アリスという女を今すぐにでも手中に収めたいはず」




「・・・」




「だからこそ私やってまいりました。今すぐにあの平民に身の程を分からせてほしいのです。それができるのはセレス次期公爵様しかおりません」




「話を聞いてやろう」




「ありがとうございます。ではこれを」




そう言って男は懐から禍々しい色の魔石を取り出した。




「これは?」




「この魔石を取り込むことによって自分の潜在能力を限界まで引き出すことができます。そうなればあなたほどの方が平民に後れを取ることなど絶対にありません」




どう考えても胡散臭い代物だ。だが―




「なるほど。それを渡せ。私が有効に使ってやろう」




「もちろんでございます」




セレスは嬉々としてその魔石を受け取った。セレスはバカだがここまでのバカではない。ずっとそばにいた俺が一番よくわかる。だから珍しく俺はセレスに意見した。




「セレス様、あの男を信じるのはさすがにどうかと」




耳元でセレスに言ったが奴は聞く耳を持たなかった。というか今考えれば聞こえてなかったようにも思える。




「その魔石を使い、シドいやDクラスと戦い完膚なきまでに叩き潰せばアリス様はあなたのものになるかと」




「なるほど、それはいい!それはいいぞ!ははは!」




この時にはもうセレスの耳には魔術師の男の声しか聞こえていなかったのだろう。こうして今回のクラス対抗戦が行われることになったのだ。











「なるほどな。セレスは精神干渉を受けていた可能性があるな」




「ああ、俺もそう思う」




「でもそれだったらなんでお前は精神干渉を受けてないんだ?」




「それは俺のスキル『鉄心』のおかげだろう。俺には精神干渉系魔法は通用しない」




「なるほどね」






ゴウズ・メイヤー




魔力総量 20000


有効魔法範囲 10000


属性 土 火 風 水




スキル


刀工


鉄心


錬金術






「ならその元凶を探し出すとするか。それでお前さぁ、俺の配下にならねーか?」




「ああ、そうさせてもらう。というかそうさせてもらいたい」




即答だった。適当に言ってみたのに即答されてむしろこっちが狼狽えた。




「いいのか?俺はお前の主人を殺した男だぜ」




「それに関してはむしろありがたく思っている」




「そうか、ならいい。これからよろしく頼むぜ」




「かしこまった」




俺はゴウズと握手をする。この瞬間にゴウズは正式に俺の配下となった。











それから俺とアリスとゴウズはセレスを洗脳した男を探し始めた。相手が精神干渉系魔法を使うことが分かっているため、この3人で行くことにした。




ゴウズは鉄心のスキルで精神干渉を受けないし、俺の炎はそんな干渉さえ焼き尽くせる。アリスに至ってはそんな魔法にかかることはない。彼女もまた洗脳魔法を持っているから。それにまだ俺にはアリスが必要だ。それが今回の大会でよくわかった。俺はまだ一人じゃ満足に戦えない。




「アリスごめんな」




「なにがだ!?というかシドが俺なしで生きられないことを理解して安心したぜ!くれぐれも俺なしで生きようとか思うなよ!」




「でもいつかは―




「思うなよ!」




「は、はい」




「それでいんだよ!俺とシドは永遠に一緒だぜ!」




「ああ、そうだな」




嬉しそうなアリスの顔を見てもう全部どうでもよくなった。




「二人とも、ここが例の男が住処みたいだ」




「そうか。アリス、何か残ってないか?」




「任せろ!俺が見つけてやんぜ!」






―感知魔法―






「・・・」




「何かわかったか?」




「ゴウズの言う通り獣人だけど半分だけだ。おそらく人間と獣人のハーフだ。そしてここはもう離れてる」




「そうか、、、」




「諦めるのはまだ早いぜ!シド!」






―感知魔法 極―






途轍もない魔力が辺りを包み込む。




「無理すんな!アリス!」




アリスは大量の汗を流しながら魔法を行使する。




「強い怒りを感じる。獣人にも人間にもだ。こいつの怒りはまだ収まっていない。こいつはまだ何かをするつもりだ」




「そこまでわかれば十分だ!もう休め、アリス!」




「そうはいくかよ!」




―感知魔法 極×補助魔法バフ―




「かはっ!はぁはぁはぁ!こ、こいつはこの国を獲る気だ。これから多くの人間を悪魔に変えて、それで―




「アリス!」




アリスは力を使い果たしてその場で倒れそうになり、俺はアリスを受け止める。そしてアリスは最後の力を振り絞って俺の腕を掴む。




「あっちだ。シド」




俺にそう言ってアリスは意識を失う。よく考えたら感知魔法なんてアリスは持ってなかった。探知魔法と似てたから気付かなかったが、アリスは覚えたばかりの魔法を限界まで引き出し、更に他の魔法を掛け合わせたのだ。




「ゴウズ、アリスを連れて寮に帰れ」




「しかし!」




「だまれ。従わないならこの場でお前を殺すぞ?」




「うっ!わかった。だがこれからお前はどうするんだ?」




「アリスが見つけたなら俺はそれを燃やすだけだ。アリスを絶対に守れよ。それが出来なかった場合ももちろん殺す」




「わ、わかった。任せてくれ」




「、、、ありがとう」




アリスは倒れる前に敵のざっくりとした場所を教えてくれた。感知魔法も探知魔法も使えない俺には細かい場所までは分からない。ただざっくりとしたもので十分だ。焼き尽くせばいいのだから。




ゴウズがアリスを連れてこの場から離れたと同時に俺はアリスが絞り込んだ範囲へと最短距離で向かう。そして着いたのは王都の外れにある廃墟。ところどころには王都で暮らせなくなった世捨て人たちが住んでいた。




さてここからは感知魔法が使えない俺には追えない。そもそもアリスが絞り込めなかったんだ。俺に見つけられるわけない。でもここでもたついていたら敵を逃がすことになる。




今俺ができることは焼き尽くすことだけ。だがここら辺には数十人の浮浪者たちが住んでいる。さてどうする?辺り一面を焼けばこの浮浪者たちも殺してしまうだろう。やべぇ奴を逃がすこととアリスの頑張りを無駄にすること、これと数十人の浮浪者の命か。いいか。浮浪者が数十人死んでも。その代わり熱いと思う暇もなく焼き殺してやろう。






―日輪の炎―






一瞬で俺は辺り一面を焼け野原にした。死体すら残らない業火の中で唯一生き残っている生き物がいた。まあこいつだろう。まとめて殺すつもりで焼いたのに。これじゃあとばっちりで焼き殺されたホームレスが浮かばれない。それならやることは一つ。さっさと殺す。

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