第8話 ここは人外魔境

 顔合せ翌日本日より実践という名のシゴキが始まる。


 どうやら段階的に訓練を進めるようで初日はゴブリンエンペラー《ペラさん》かららしい。


 ベヒーモス?


 あんなのと訓練したら一瞬でペッチャンコだよ。


 この領地で新人であるペラさんですら既におかしいのだから。


 「今日は宜しくお願いします。」


 「ハジメル」


 俺は身体強化を行う。


 「それでは行きますよ。」


 気合い一閃、一瞬でペラさんとの間合いを詰め拳を叩きつけるが空振り


 「オソイ」


 背後から声が聞こえて振り返ろうとしたのも束の間、景色がグルグルと回っており受け身も取れずにそのまま地面とディープキスをしていた。


 ファーストキスが地面とか中々に貴重な経験をありがとう。


 泣いてなんていないからな。


 直様立ち上がると構え直す。


 正直全く反応出来なかった。


 気付いたら背後を取られておりどうやらそのまま足を払われ殴り飛ばされた様だ。


 身体強化していなかったら今頃全身複雑骨折だったかもしれない。


 正直エンペラーとは言えゴブリンを舐めていた。


 速いとかそう言った次元では無く全く動きが見えなかったからだ。


 これでこの領地の新人と言うのだからつくづく恐ろしくなる。


 同じ様に向かっていってもやられるだけである。

 一つフェイントを入れてみるか。


 俺はペラさんに走り出す際に緩急を付けて近付き軽くジャブを入れて牽制しつつ空いた側に向って蹴りを放つ。


 「カルイソシテヨワイ」


 まるで退屈ですよと言わんばかりの破棄の無い声を出しながら足首を捕まれまるでゴミの様に放り投げられた。


 今回は加減してくれた様で体制を立て直し着地する。


 「ウシロアイテル」


 何の気配も無く後ろに回り込まれそのまま襟首を捕まれて放り投げられた。


 着地しては投げられを繰り返されもう目は回るは三半規管がおかしくなりどっちが地面か天かも分からない。


 「ガードシナイトシヌゾ」


 一瞬感じた殺気に全開で身体強化を掛け直し構える。


 正面から突き出されたペラさんの普通のパンチを受け10m程吹き飛ばされて農具小屋に激突しそこで意識を失った。



 気付いたら自室で寝かされていた様で見慣れた天井が其処にはあった。


 余りにも何も出来ず悔しさが込み上げる。


 俺は何て弱いんだと。


 少しいい気になっていた様だと自分を律しないとこのままでは駄目な貴族のボンボン止まりだろう。


 折角転生して更に転生してこの世界に来て恵まれた環境に来られたのだ。


 この世界を全力で楽しみ自分の人生をより良い物にする為には力を付けなければならない。


 今日は不甲斐ない結果になってしまったが、明日からは頑張ろう。

 

 そう心に誓ったのだった。



 翌日からもペラさんとの訓練は続いた。


 最初は同じ様に投げられては気絶し見慣れた天井の繰り返しだったが、一月程も経つと慣れてきたのかかろうじて気配位は感じる事が出来簡単に掴まれて投げられる事は無くなった。

 それでもペラさんの一撃は速くて重くガードしても吹き飛ばされる事には変わりは無かったがみっともなく転がされ意識を手放す事は無くなった。


 身体強化にも慣れ其処だけに意識を向けなくて良くなったのとこの身体強化は目にも有効だとからだ。


 ひょっとしたら出来るかもと思い試したら何となく出来たからだ。


 更に思考加速にも出来ないかと頭にも身体強化の力を回すと若干時の流れを遅く感じる事が出来何とかペラさんの動きを追える所まではきたからだ。


 「だいぶ受けれる様になってきました。次は反撃しますね。」


 「ヨウヤクジュンビハオワリカ。スコシホンキダス。」


 目の前のペラさんが消えた。


 俺はペラさんの気配を探る為に集中力を高め名一杯身体強化を張り巡らせる。


 僅かな気配から振り返り拳を突きだす。


 「ザンネン」


 何故かから声が聞こえ慌ててガードするも間に合わずそのままペラさんの蹴りをまともに受け首元まで地面に埋まり其処で意識を失った。


 その日の夕食時に父上からお前が作物みたいに土に埋まってどうするんだと呆れた目で見られその日の夜枕で涙を濡らしたのはここだけの話だ。



 

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