第7話 スパルタ凶育

 無事に? 顔合せも済ませいよいよ俺の訓練が本日始まる。


 どうやら最初は父上が教えてくれる様で安心だ。


 そう思っていた俺はこのエンデュミオン家というものを全く理解出来ていなかったと早くも後悔する事になる。


 屋敷内にある広い庭に朝食時に装備は無しで来るように父上より言われたので若干の不安を抱えながらも気合を入れて庭に出ると上半身裸の父上が格闘家みたいな動きでシャドーをしていた。


 俺を見付けると父上はシャドーを止めニッコリと笑っている。


 「それでは本日よりエンデュミオン家の訓練を始める。といっても教える事はそれ程無いので直に慣れるだろう。」


 「はい、宜しくお願いします!」


 最初が肝心なので気合を入れて返事をする。


 「先ずは体内にある魔力を感じる所からだ。心臓の辺りに意識を集中すれば温かいモヤの様な物が有るのが分かるだろう。それが分かったら身体全体を薄い膜で覆っている様なイメージをするんだ。」


 言われた通りに目を瞑り心臓の辺りに意識を集中する。


 僅かにモヤモヤとした様な物がある様な気はするがこれが、中々に難しい。

 

 暫く集中してモヤに色が付いているイメージをしていると段々と感覚が研ぎ澄まされ慣れて来た様だ。


 次にこの色付きモヤを身体を包む様なイメージだが、最初はシャボン玉の中に入っている風にイメージしそのシャボン玉を徐々に絞っていく。

 身体に触れるギリギリの球形になるまでイメージした所で披露から集中力も乱れ本日の訓練は終了した。


 やってみて初めて気付いたが以外に難しい。


 どうやら最初から何でもこなせる様なチーター体質ではない様だ。


 それに思ったより消耗が激しい。


 最初は目眩や脱力感が酷かったが一週間程続けていると徐々に症状はマシになっていった。


 試行錯誤した結果最終的には俺のイメージは全身タイツで落ち着いた。

 無駄なくピッタリ身体に沿っているイメージ的にこれが一番ベストだったからだ。


 何とか父上から合格を貰いようやく次の段階に進める。


 身体強化は全ての基本になるのでこれが出来ないと始まらないからだ。


 「やっと形になったか。次は無いのでこれで私が教えれる事はもう無いな。卒業だアストラル。おめでとう!」


 「え? 終わりですか?」


 「そうだ。」


 それは清々しく言い切られてしまった。


 「父上、確かに身体強化は出来る様になりましたが、その...... 魔法等は......。」


 「あんな物何の役にも立たないぞ?」


 ナニヲイッテルンダロウカ


 「実際見てみたら分かるか、フローラ、私に向ってファイアーボールを飛ばしてみてくれないか。」


 丁度庭に出て来たばかりの母上に向って父上が声を掛けると母上は父上に向って何のためらいも無く火の玉を投げ付けた。


 父上はその火の玉に向って拳を突き出すと火の玉は霧散して消滅した。


 「な? 要らないだろ?」


 何を分かり切った事を言っているんだと言わんばかりに父上が俺に呆れた顔をしている。


 何の躊躇いもなくいきなりファイアーボールを父上に投げ付ける母上も母上だがそれを拳一つで消滅させる父上も大概どうにかしてる。


 「しかし父上、学校等に行くと魔法の授業やテスト等も有るのでは無いですか?」


 未だ納得がいかない俺は食い下がる。


 「アストラル、魔法が使える事とそれが必ずで有るかは別なんだよ。まぁ確かに魔法の授業やテストはあったな。」


 「それなら必要じゃないですか!」


 「しかしファイアーボールなんて使った覚えがないんだよなぁ。」


 父上は顎に手を当て考え込むような仕草をしている。


 「貴方の魔法は特殊でしたからね。」


 どうやら母上の記憶には残っているらしい。


 「フローラ、どんな風にやっていたか覚えているか?」


 本気で忘れているらしく母上に聞いている父上


 母上は父上に身振り手振りで説明をすると父上は思い出したとばかりに手を打った。


 「そうだったか、フローラ。思い出したよ。ありがとう。」


 本当に思い出したのが嬉しかったのか母上を抱き寄せて見つめ合っている。


 母上も満更では無さそうで頬に朱が刺している。


 両親が仲睦まじいのは良い事ではあるが息子の前でイチャイチャするのは自重して欲しい。


 「ゴホン」


 何だ邪魔するなと言わんばかりに睨む


 近い内に弟か妹が産まれるかもしれないなぁと思った。


 「それじゃあアストラル、良く見とくんだぞ?」


 そういうと父上は身体強化を使う。


 父上の存在感が増した様に感じる。


 「では先ずは火魔法からだ。」


 父上の右手が徐々に赤くなり拳にグローブをはめた様な赤い塊が纏われている。


 続いて水魔法と言うと同様に左手が徐々に青くなり右手と同じ様に青い塊が纏われている。


 母上が何やらガラガラと的の様な物を押して来て父上の前面に設置した。


 設置した後母上が的から離れたのを確認して父上は右左の順で拳を的に叩き付けた。


 的は一瞬燃え上った後、直に鎮火され弾け飛びながら視界から消えていった。


 「まぁこんなものか。」


 やりきった感を出している父上と何故か目をキラキラとさせている母上。


 俺は目の前の出来事にどう答えて良いのか分からなかった。


 確かに魔法だったとは思う。しかし魔法を手に纏いただ名一杯振るっただけなのだから。


 「父上、この方法で授業やテスト受けたんですか?」


 「すっかり忘れていたが、フローラが言っているから間違いないだろう。魔法等、久し振りに使ったのですっかりやり方を忘れていた様だ。」


 ハハハと豪快に笑っている父上と何処か誇らしげな母上


 本当にこれでいいのだろうかという不安は拭えないけど、王立学園を知力、武力共に最高の成績で卒業したのだからこれでいいんだろうと無理矢理納得して俺は同じ様に練習を始めたのだった。


 流石に魔法を手にとどませるのは難しくその後数ヶ月に渡る訓練の後に色々な魔法を拳に纏う事が出来る様になり無事に父上のスパルタ凶育は終了となった。


 しかしこれで本当に良かったのか未だに不安は晴れない。


 今後は領モンの皆さんとの訓練可愛がりが待っている。

 

 楽しみ一割、不安九割。


 こうしてエンデュミオン家の華麗なる日常は今日も明日も明後日も変わらず続いて行くのだ。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る