第6話 華麗なる一族②

 どうみても目の前に居る魔物達は普通には見えないんですが......


 これを微笑みながら仲間と言っている母上もどうかと思うが、ニコニコと笑いながら凶悪な5mはあろうかという赤色の熊と取っ組み合いをしながら力比べを急に始めている父上。


 「えっと......。」


 我が領地は魔王の直轄地だったのだろうか?


 先程から悪寒と冷や汗が止まらない。


 とてもじゃないがまともに目は合わせられないし本能が死の危険だと警鐘をこれでもかと鳴らしている。


 転生直後は勝組ヤッホーなどと呑気に構えていたがとてもではないがこの領地の跡継ぎとか無理。


 軽く撫でられただけで首と胴体はさようならだろう。


 しかもそんな魔物が勢揃いしているのだ。


 いくら辺境の地だからと言ってもこれは無い。


 父上と母上は国を滅ぼす気なのだろうか。


 「アストラル、紹介しよう。これが我が精悍なる領達だ。」


 今間違いなく領モンって言ったよね?


 父上は取っ組み合いを止めこちらに向き直っている。

 後ろから凶悪な赤色の熊が父上の頭をバシバシと叩いているが父上は笑顔を浮かべたままだ。


 「ハハハ、この通り愉快な領モンなんだよ」


 普通の人なら今頃首と胴体がさよならしているだろう。


 「それで父上、僕にもちゃんと紹介していただきたいのですが。」


 何とか振りしぼって声を出した。


 「おっと話が脱線したな。俺の後ろにいるのがキングデスベアーだったかな、その後ろに居るのはデスベアー達だ。狼みたいなのはブラックフェンリルとハンターウルフ、黒い牛みたいなのがキングベヒーモスの幼体だ。」


 早々たる面子だった。


 しかしこれだけでは終わらない。


 異様なオーラを発している黒いゴブリンも居るし空を見上げたら旋回している魔物もいる。


 「父上、そちらの異様なオーラを放っているのは?」


 「ん? ペラの事か? こいつは最近来た新入りでなどうやら山脈から強い魔物に追われてきて我が領地に逃げて来たハグレゴブリンだ。最初は頼りない奴だったんだが領モンの皆に可愛がられた結果存在として進化したらしい。おい! ペラお前は今は何なんだ?」


 ペラと呼ばれたゴブリンに父上が聞いた。


 寧ろ何故知らないんだよと思う。


 「ダンナサマ ゴブリンエンペラーニナッタ」


 「アストラル、ゴブリンエンペラーらしいぞ」


 可愛がりの内容は知らない方が良いだろう。

 どんな環境で育てば普通のゴブリンがゴブリンエンペラー等になるんだよと。


 「父上、先程から気になって居るんですが、空をずっと旋回している魔物もまさか領モンなんでしょうか?」


 ずっと先程から旋回していて降りてくる気配はないが、空からのプレッシャーも凄い。


 「ん? ああ、あれはトリーだ。」


 「鳥ですか?」


 父上は口笛を吹き空に向っておーいと叫ぶと旋回していた魔物が降りてくる。


 空の上では点にしか見えなかったが高度を下げてくるに釣れてその巨体が露わになってくる。


 一鳴きすると父上の真横に着陸した。


 これは俺でも知ってる魔物だ。


 「えっと、グリフォンですよね。」


 「アストラルも知っていたか。そうグリフォンだ。ちなみに番で居るのでこのトリーとトリミが居る。」


 もう何でもありだな。


 その内魔王軍四天王とか出てくるかもしれない。


 「この優秀な領モン達によって我が領地は領民が居なくなってからも成り立っている。」


 この領地を攻めてくる者は居ないだろう。

ただでさえ辺境の地なのに危険区域指定されてもおかしくない。


 領民達の名前もガルやグルやらモスやら酷いネーミングだがもはやその事に対して突っ込む気もしない。


 「領モンの皆様、僕はヴァーミリアン・エンデュミオン辺境伯の息子アストラル・エンデュミオンと申します。今後とも長い付き合いになると思いますが宜しくお願いします。」


 出来るだけ丁寧に深く深く頭を下げた。


 良い関係を築けなければ僕の代で間違いなくこの領地は滅ぶだろう。


 間もからの反応は薄いが言葉が通じているかは分からないけど誠意は大事だと感じたからだ。


 「今日は皆に我が息子を紹介する為に集まって貰った。まだ未熟な息子で迷惑をかけるかもしれないが宜しく頼む。」


 そういって父上は頭を下げ続くように母上も頭を下げた。


 貴族が魔物に頭を下げるとは。


 俺の中の貴族のイメージとはかなり掛け離れているが自分の為に両親が頭を下げていてくれているのだ。俺も再び頭を下げた。


 ガルと呼ばれたキングデスベアーがグワッと鳴き立ち上がり前足を上げる。

 それに習う様に各々の魔物も咆哮を上げた。


 こうして俺と領モン達の顔合せは何とか無事に済ます事が出来た。


 これから俺の訓練の師匠がこの領モン達になろうとはこの時は思いもしなかったのであった。

 


 


 

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