第5話 華麗なる一族①

 都合三回目の三歳の誕生日である。


 人生の中で三回も三歳の誕生日を迎えた者は中々いや、ほぼ居ないだろう。


 赤子からリスタートした俺は食う寝る出すのループを只管繰返し無事に成長し本日三回目の誕生日を迎えた。


三歳にもなると拙いながらも少しは話せる様になりある程度動き廻る事も出来る様になっていた。


 以前の諦めにも似た暗い性格を変えようと陽キャラの様に振舞い子供は元気に明るく良く笑うを実践している。


 それは今後の為でもあり今の俺の環境が恵まれていて幸せだからだ。


 後に詳しく説明するけど生活環境はかなりだと言わざるを得ない。


 それでも日々楽しく充実した毎日を過ごせている事には違いないだろう。


 再転生先は当たりも大当りだった。

 

 なぜならヴァーミリアン・エンデュミオン家の長男として転生する事が出来たからだ。


 これが両親ガチャ成功という事だろうか?


 いずれにせよ前回の地獄とは雲泥の差である事には違いない。

 人生早々捨てたものじゃないと身を以て知った訳である。


 それでは改めて生まれ変わった俺の取り巻く状況について紹介をしよう。


 皆様こんにちはアストラル・エンデュミオンです。


 辺境伯ヴァーミリアン・エンデュミオンとその妻フローラ・エンデュミオンとの間に産まれた紛れもないエリート貴族の長男である。


 貴族の家で長男に生まれると言うことは余程のボンクラでない限りは勝ち組だからだ。


 自慢の父上は王立の最高学府を過去最高の成績を以てで卒業した所謂天才だ。

 英傑と言っても良い程に文武共に優れておりこの魑魅魍魎が跋扈するこの領地を問題なく納めている。


 若干脳筋気味な所は有るが容姿はハリウッドスターも裸足で逃げ出すレベルのワイルドイケメンだ。

さぞかし学生時代モテたことだろう。

 それとなく母上に聞いてみたがウフフと笑っているだけで一切の答えは返って来なかった。


 何やら有るのだろうが親の恋愛事情を根掘り葉掘り聞くほど無粋な真似はしない。

 それに若干母上の微笑みに恐怖を感じたからだ。


 母上であるフローラは準男爵家の三女として生まれどちらかと言うと貴族間の繋がりを深める為の政争の為の要員としての教育を受けて育ち学院でも普通の生徒の一人だったようだ。

 母上の容姿は至って普通なのだ。派手さは無くどちらかというと地味な部類である。

 性格は温厚で優しいのだが、たまに微笑みが怖い時が有るのは実は怒っているのか未だに謎である。

 選り取りみどりの中父上が何故母上を選んだのかはこのエンデュミオン家の不思議の一つである。


 あわよくば玉の輿と考える貴族令嬢の中で父を射止めた事はさぞや母上の実家も王国で鼻が高い事だろう。


 父と母は王立の最高学府である王立上級アカデミアで出会い卒業と共に結婚

 このエンデュミオン領を祖父より引継ぎ今に至っている。


 領地は辺境と言う事もあり危険な魔物が度々降りてくる北の山脈に接している。


 極稀に王国で危険指定の魔物等もやっては来ているみたいだが父上が鍛え上げられたその拳で撃退し追い返している。


 実はこのエンデュミオン家の治める領地には領民は居ない。

 正確には以前は居たのだが山脈から度々危険な魔物が降りてくる為に先代の時にどうやら皆逃げ出してしまったらしいと父上はから聞かされている。


 しかし領地の一面には黄金に輝く小麦畑が広がっておりしっかりと手入れもなされている。


 まさか父上が一人でやっているのかもとも思ったがどうやらそういう訳ではないらしい。

 まぁ父上なら一人でもやりかねないとは思うしやってやれなくはなさそうではある。


 確かに領民は居ないしかし領が居るのだ。


 転生特典で頭がおかしくなった訳ではない。


 俺の三歳の誕生日に父上に確かに紹介されたのだから。



 誕生日の朝


 父上よりこの領地に住んでいるを紹介するから表に出る様に朝食の時に声を掛けられた。

 母上に急に何の事だろうと目を向けると微笑んでいる。

 どうやら怒っている様子は無いので何か問題が有る訳ではないのだろう。


 「 分かりました。父上」


 生まれてから屋敷からは殆ど出た事が無かったので安全な領内とはいえ楽しみの気持ちの方が強い。


 「それでは私は先に行って仲間を集めてくる。アストラルは食事が済み次第フローラと一緒に来るといい。」


 そう言い残すと父上は足早に食卓を出て行った。


 俺は少しいつもより早口で食事を食べ終わらせると母上を急かす様に早く行きましょうと手を引いた。


 母上の手を引きながら俺は屋敷を出て眼下に見える広大な小麦畑に向かって下っていく。

 

 屋敷は小麦畑よりは高地に有り屋敷を中心として下へ向かって放射線上に小麦畑が広がっている。


 暫く母上の手を引きながら下っていると何やら背筋にゾクゾクとする様な感覚が強くなってきた。


 一歩進む毎に圧というべきその感覚は強まっていきまるで生存本能がこの先に進んではいけないと警鐘を鳴らしている様に感じた。


 不安になり母上を見上げたが特に変わった様子は無い。


 段々と足取りが重くなっていくと急に母上に抱え上げられる。


 「アストラルもまだまだ甘えたいんですね。」


 どうやら足取りが重くなって居たのを歩くのに疲れたと勘違いされた様だ。


 疲労はまだ一切ないんだけどこの異常な状況に母上は何とも無いのだろうか?と思っているものの母上の歩く速度には変化はない。


 母上が一歩進む度に地獄へ向って行進している様な気分になって来る。


 何とか無理矢理に思考を逸らし無心を貫いていると開けた土地が見えて来る。


 その開けた土地の中心に立って手を振っている父上が居た。


 何故か父上は魔物に囲まれていたが笑っている。


 俺は慌てて母上に言った。


 「母上、父上が魔物に襲われかけています!」


 母上は俺の頭を撫でながら優しく微笑むと大丈夫ですよと言った。


 父上が強いからこその信頼からの言葉かそれとも他に何か有るのか......。


 「彼等は私達の領地の大切なお友達ですよ。」


 平然と何でもない様に言っている母上の言葉に俺は苦笑いを浮かべるしか無かった。


 


 

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