第3話 幕間 とある貴族の没落のハジマリ
私は由緒正しき血筋の伯爵家の現当主のカイエン・マグナルドである。
我がマグナルド家は代々この王国牽いては領地の繁栄に先祖代々寄与し王家からの覚えも良く陞爵間近と噂も立っている。
眉目秀麗、王国の最高の学府を次席で卒業した。
文武両道、正に非の打ち所がないエリート貴族である。
そんな正にこの世の春を謳歌している我が華麗なる一族の前に5年前不幸が襲いかかった。
あろう事か産まれた息子が無能力だったのだ。
この華麗なる一族に汚点は一切あってはならない。
周りの貴族連中からも何を言われるかたまった物では無いしこれを機に足を引っ張ろとする者も沢山居るだろう。
私は末弟が無能力と知りすぐ様に身体が弱いと言う事にしてとても人前に等出る事は出来ないと広め軟禁する事に決めた。
決して他者に知られてはならないし我が華麗なる一族から無能力が誕生したなど認められないからだ。
妻は最初はかなり抵抗したが、連日説得し諦めさせた。
他の息子や娘達にも周りと同じ様に身体が弱い為離れから出られ無い事を説明し離れの立入りの禁止を厳命した。
当主としてまた一族の長としての命令に誰一人歯向かう者は居なかった。
その後は同じ無能力者の使えないメイドに一切の世話を丸投げし生かさず殺さず放置をする事に決めその内家族はその存在すら忘れていった。
それからも我がマグナルド家は更に栄華を極めていった。
全てが上手く行き何をやっても成功しかしない。
順風満帆に月日が立つ中また一つ新たな問題が生じたのだった。
今の神に祝福された私なら何の問題もなく乗り越えられるだろう。
そんな自信しか無かったあの時の私は完全に調子に乗りどうかしていたのだろう。
今更後悔した所でもうどうする事も出来ないのだが。
ある日メイドの報告で末の息子が五歳になったと知らせを受けた。
この国では五歳になると神の祝福を受けそれぞれに何らかの
そんな者が居たかと半ば忘れていたがふと記憶の片隅を探ると自分の末の息子が居たなと思い出した。
生まれながらに瞳の色黒から無能力と分かっては居たし今更祝福を受けさせる為に外へ出して誰かに見られでもすれば私の今まで築き上げた者がどうなるか分かったものでは無い。
ここは一つ諦めさせる事にする為私は息子を呼び出す事にした。
妻のその話をすると一目だけでも見たいと言ったので立ち会わせる事にした。
長男や次男、最愛の可愛い娘からも興味本位と自分達に今後仕えさせる為の者として紹介する為に立ち会わせる事にした。
メイドに食事後に私の部屋に呼ぶ様に伝え家族と共に寛いで居ると部屋の扉がノックされた。
私は威厳を保つ為、一つ咳払いをし入れと一言だけ発すると扉が開かれ見窄らしい覇気の欠片もないまるで萎びた野菜の様な子供が部屋の中に入って来た。
妻はその姿を見て一瞬目を見開いたが直に表情を元に戻した。
息子や娘達は本当に興味が無かったのか一瞬だけその見窄らしい子供に目を向けたが後は興味が無いとばかりに自分達だけの話に戻っていた。
私は目の前に居る子供に我が華麗なる一族について如何に優秀であるかを力説したが目は既に死んでおり何の反応も無かったが構わず話を続けた。
祝福を諦めさせようと本題に入ろうとした時に子供が私の前に歩いて来て急に手を合わせ目を瞑った。
当主である私が話している最中に何と礼儀がなっていないかと叱責しようとした瞬間に子供は私の机に置いて居たペーパーナイフを素早く取ると自分の喉に突き立てたのだった。
余りの後継に誰もが身動き出来ていない中で妻は悲鳴を上げ気を失った。
息子や娘も目の前で起こった凄惨な光景に泣き喚き身体を縮め震えている。
私からしか見えて居なかったのだが、確かに目の前の子供は喉にナイフを突き立てながら笑っていたのだ。
とても五歳の子供が取れる行動では無い上ましてや笑うなど常軌を逸している。
その行動には戦慄さえ覚えた程だった。
私は慌てて執事とメイドを呼び子供に治療を施す様に怒鳴り散らしが致命傷だった様で子供が助かる事は無かった。
私はこの事を家族や執事、その場に居合わせたメイドにも他言しない事をキツく言い付けた。
子供の亡骸はしっかりと焼いて灰に変えた後、敷地の隅に埋める様にした。
幸いにして周りには生来身体が弱かったと言ってある。
このまま病気で亡くなってしまった事にして悲しみにくれている風に装っていれば私に対して同情も得られるだろう。
私は子供が埋められている敷地の隅を部屋から見下ろしながら最後には役に立ってくれたなと自嘲気味に溢したのだった。
あれから妻は耽っており部屋から出て来なくなった。
娘も余りの凄惨な光景を目の当たりした事からいつも何かに怯えている様に怯えている。
長男と次男は変わらない風を装っては居たが笑う事が少なくなった。
子供の世話をしていた無能力メイドは他言は絶対しない事を約束しこの領地から出て行った。
僅かな報酬を渡し口止めをしたが頑として受け取れないと誇示をされた。
時間と共に我が華麗なる一族も元に戻るだろうと考え私は今日も執務につくのだった。
伯爵はこのまともに名前すら付けなかった息子を無能力と決めつけず祝福すべきだったと後悔するのは数年の後の事である。
彼は転生者であり持っていたギフトは特別なものだったからです。
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