第55話 地平線上の今日
「さて…。思ったよりも何もなかったな…。あわよくば第四階層への降下口あたりがあるかと思ったのに。」
「ふむ。お前は下階層へ行きたいのか?」
「ああ。」
「なぜ?」
「そりゃあ、ワクワクするからだろう。それ以外の理由がいるか?」
「なるほど。お前も大概に狂っておるのか。」
「ま、外から見ればそうかもな。」
ヴァルハラを後にしながら話す二人の後ろには、屍を纏った豹や鼻の長い浮遊動物、騎士を乗せた白馬などが並ぶ。リソースを割いていたQのクールタイムが終了したために21のリソースをほぼフルで投入した行軍は、彼らの王を守るにふさわしい力と威厳を備えていた。
******
「ここを出たら、次はこの階層の探索だな。」
「ふむ…。私としては、上でも下でも同じだから良いのだがな。」
「ならば付き合ってもらおう。まあ、俺も永遠にダンジョンに居るわけではない。将来的には上の世界も見れるだろうさ。」
「では楽しみにしておくとしよう。」
この階層について、完璧に把握しているわけではない。しかしながら、この近辺の地理と出現モンスターについてはある程度把握できている。そこから考えるに、まずはここを離れるというのが第一条件だ。この近くに発見が少ないというのはすでに判明しているのだから。
「では、ロクロを顕現するか。」
ロクロは10のリソースを使用するため、セムは送還する。ロゼローリエを顕現するならば、残りのリソースは9となり、ヒュア、オルデラ、カゲロウ、セムといった選択肢の中から残りを選択することになる。ヒュアは索敵担当として非常に優秀なため、顕現しておきたい。そうなるとオルデラは顕現できなくなるが、まあオルデラを顕現するのは敵を発見してからでも遅くないだろう。そうなると残りは3だが、3ならヘクシーとカゲロウが安定なのではないだろうか。
「というわけで、オルデラは送還だ。」
「ふむ。送還とはこういうものなのか…。なんというか、寂しいものだな。」
ロゼローリエのつぶやきは、非常に耳に残った。しかしふさわしい返答を見つける事は出来ず、彼は聞こえていないふりしかすることができなかった。
******
ロクロの角は、手を思いきり広げた程度まで成長している。顕現していない間にもその成長は見られたため、どうやら送還中も角の成長は行われているという仮説があるが、カードの中で時間の概念がどうなっているのかということは未だに分からないことが多すぎるために断定はできない。だが、この程度まで成長したならば、緊急回避的なバリアには十分だろう。
ロゼローリエを後ろに乗せ、ヘクシーと並んで行動する。ロクロに騎乗しているのもそれはそれで体力を使うのだが、やはり移動速度で言えばこちらの方が速いし、慣れればこちらの方が楽だろうなという期待もある。鞍がないためのキツさなのかも知れないし、ダンジョン外に出ることがあれば入手したいところである。
「ロクロは、ヒュアについていくように。ヒュアのことは感じられるか?よし。ヒュアは、できるだけ接敵が少なくなるルート取りを頼む。今まで接敵していないモンスターがいれば教えてくれ。では、出発!」
ダンジョン外に出たときのことを、彼は今まで考えたことはなかった。ロゼローリエという存在は、ダンジョンの中で生まれ、外を知らないにもかかわらず、いや、だからこそ、間接的にダンジョン外と彼を繋いでいた。
「ああ、接敵したらセムに相手取らせるか?いや、カゲロウにするか?どちらかの昇華も狙っていきたいところだな。」
「昇華?どんなものかはわからぬが、私も体験してみたいものだ。」
「そうか。では、ロゼローリエにも出張ってもらおうか。」
ロゼローリエは、付属する価値があまりにも多いために忘れそうになるが、オルデラやカゲロウといった俺の手札の中でもトップクラスの戦闘能力を持つ者たち複数と対等に渡り合うだけの戦闘能力の持ち主である。速度で言えばカゲロウに、攻撃力で言えばオルデラに、攻撃範囲と耐久性で言えばロゥに劣るが、ヒト型のために俺の持つ武器を使わせるといったことも可能であるし、愛を根拠にした回避も凄まじい。女に働かせて後方で待機していることへの旧時代的な恥ずかしさはあれど、彼女もまた、最大のコストパフォーマンスを持つ手札の一角である。
―――――あとがき
こんにちは。今回でヴァルハラ回は終了です。ケルバウのロゥ、ヴァンパイア亜種のロゼローリエ、ヴァンパイア・ウームと、非常に収穫の多いエリアだったと思います。昇華を果たしたオルデラの、確実に致命傷を与えられるという能力は今のところ頭一つ抜けた強さですが、その能力がなくとも倒せる相手に対してはオルデラよりも簡単に倒せるモンスターも多いため、なんだかんだいい塩梅かなと思っています。
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