第50話 少年

 ヴァルハラは、数歩進めば敵が現れるといったような館ではあるが、幸か不幸か番犬に比べれば弱いモンスターが多い。倒されにくく、倒しにくいというモンスターが多いだけに一度に多を相手にするという愚は犯せず、見つけたモンスターは逐一倒していくというのが最適であると思われた。

 しかしながら、オルデラというモンスターを擁することで、非実体種であろうが、無機種であろうが、強固な体を持とうが関係がなく倒せるという強みがこちらにはある。生存する領域が建造物の中であるということも相まってか機動性に乏しいモンスターが多いために、その労力は思いのほか少なかったと言えるだろう。


「これで二十体目か…。先は長いが、走り切るだけの体力を持っているのは幸いだな。」


******


種族名:フィーダー(21属)

カテゴリ:【既死種(3)】【飛行可能種(7)】

能力アビリティ

・存在意義の完遂

 生命体の口めがけて特攻し、自分自身を食べさせる。

・存在する悲しみ

 特攻が失敗したときのみ発動可能。精神に作用する奇声を発する。この声を聴いたものは、フィーダーを食べたいという気持ちに駆られる。

・腐敗食材

 フィーダーを食べた者に疫病の状態異常を付与する。


*フィーダー

 腐った食材に、生物の顔を思わせる切れ込みが入ったようなモンスター。それはシミュラクラ現象の力を借りてこそいるものの、口と思われる部分から奇声を発するように、顔としても機能も有する。食材として死んだアンデッドである。


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種族名:ウィドー(8属)

カテゴリ:【無機種(8)】

能力アビリティ

・招き猫

 魅了の状態異常を付与し、窓際までおびき寄せる

・万有引力

 招き猫は、その重さを制限の範囲で自由に変えることができる。制限される幅は、もともとの招き猫の重さから100倍程度までの間である。


*ウィドー

 窓辺に置かれた、招き猫のような形のモンスター。魅了によって対象の手に取らせ、自身の重みで窓辺から共に落下する。招き猫の部分を破壊すれば討伐可能であるために非実体種ではない。しかし、招き猫は終端速度で落下しても壊れない程度には丈夫である。


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種族名:ミラーマン(2属)

カテゴリ:【不死種(2)】

能力アビリティ

・鏡像的新世界

 破壊不能のレンズとセットで生まれ、視認可能な像と視認不可能の本体は常に鏡像の位置関係を取る。感覚は像が持ち、思考能力は本体が持つ。物理攻撃は本体にのみ有効である。


*ミラーマン

 意味ありげに浮かぶレンズからその特徴を看破したとしても、戦闘中に視認不可能な実態を捉え、攻撃することは容易ではない。しかし、本体の戦闘能力は個体差が大きく、戦闘に有用な能力も有してはいないため、個体によっては討伐が容易な場合もある。


******


 フィーダーは厨房らしき場所で、ウィドー、ミラーマンは廊下で、それぞれ遭遇した。登録の魅力で考えればミラーマンが最有力だが、単純に遭遇したくないモンスターはフィーダーである。強烈な臭いと口に入れてはいけないという制限のおかげで、オルデラが非常に戦いにくそうだからだ。しかし、幸いにもフィーダーは厨房らしきところを抜けてからは遭遇してない。今のところ最も多く遭遇したのは、ダントツでポルター。次に厨房だけでその遭遇回数を伸ばしたフィーダーが来て、ツーデックス、ウィドーと続く。ミラーマンに関しては、まだ一体しか遭遇していない。


「ミラーマンは面白そうなんだ。もう一体出てこないかな…?」


 能力に関する事実が段々と明らかになってきたことで、登録するときの慎重さが増している。そのため、登録するのはたいてい二体目のモンスターだ。ミラーマンのように、希少ではあるものの一体目の時点で即断できる魅力もないモンスターというのは今後も悩みの種になりそうだ。


 そうこうしているうちに、場所はすでに第三階。一階一階の天井が非常に高いため、二階の時点で相当な高さがあった。具体的に言えば、ウィドーが心中を狙って待機するぐらいには。侵入前に傍目に見た感じでは、ヴァルハラは全部で四階。もし仮に四階にボスのような存在がいるのならば、三階は最後の砦である。階段を上り切ったその瞬間から、集中力を高め、気合を一層入れなくてはならない。ヴァルハラは俺の墓標にふさわしくはないと、俺はそう意気込んだ。







―――――あとがき

 こんにちは。今日で一月も最後ですね。最近はもっぱら自宅生活のため、時間の流れが速いです。

 今回は新たに三体のモンスターを登場させました。この階層の平均的なモンスターでは、オルデラによる一方的な戦いになってしまうからです。読んで楽しく、書いて楽しい話というのは非常に難しいものですね。

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