第49話 暮明に嗤う

「カテゴリ数は限界があるのかな?ま、カテゴリの性格上はなさそうだが。」


 ポルターの存在からは、今まで光が当たっていなかった能力の側面を知ることができた。そしてやはり、自分の能力ではあるもののその理解はまだまだ浅いということを知る。その余白は伸びしろと言い換えることができる代物ではあるが、色のついていない真っ新など、その時点で何の価値もないというのもまた事実である。


「さて。次の敵はどこだ?ヒュア。」


******


 次の敵は、ふくよかな体形をした貴婦人の絵であった。

 その絵に近づいた時、その貴婦人の瞳だけがギョロっと動き、視線が交わる。その現象は絵という前提の下での異常ではあるが、モンスターという前提での自然である。ヒュアのおかげで前提が確定するということは、心構えができるということでもあった。


「まずは…、カゲロウ。」


 カゲロウの翼によって、その絵は壁ごと二つに切断される。しかしながら、その切断面は瞬きの間ほどの時間を経て再び何事もなかったかのように結合した。


「ふむふむ…。なら、オルデラもやってみてくれ。」


 今度はオルデラが、確実に致命傷を与える。いつもは牙で仮の急所を狙うオルデラだったが、壁面という状況は牙を立てにくいらしく、今回は爪が彼の武器だった。


『モンスターの殺害を確認。情報を取得します。』


******


種族名:ツーデックス(6属)

カテゴリ:【非実体種(6)】

能力アビリティ

・二次元存在

 二次元に存在するこのモンスターにダメージを与えうるのは、同じ二次元のモンスターのみである。その寿命は、観測する者がいる限り永遠である。

・心の引力

 視線が合っている生命に対し、時間に比例する魅了の状態異常を付与する。


*ツーデックス

 絵画の形をとるモンスター。しかし、絵画はモンスターの命と関係がないため、絵画を傷つけてもモンスターにダメージはなく、即座に回復してしまう。その絵画に魅了され、心奪われた者は、その一生をその絵画の前で過ごすことになるだろう。しかしながら、その身量はあくまで絵画の芸術的価値によるものであるため、一定以上の知性を有するものでなければ効果がない。


******


「なるほど…。危なかったな。」


 能力的に、もう数分視線を合わし続けていれば魅了状態になってしまっていたかもしれない。その場合は、セムが機転を利かせて何体かを引き連れてカードに還ってくれればQが発動するだろうが、あまりにも不確実なことに違いはないのだから。


「さて…。やはりこの階層では、非実体やら不死やらで、普通の攻撃手段が通用しない相手というのが多いな…。そうなると、カゲロウの活躍の場が狭まるが…。まあカゲロウの強みは攻撃力より機動性だ。どちらにせよ1と言うリソースの対価として破格なのに違いはないのだから、このまま顕現させておいていいだろう。」


 非実体で、状態異常を付与できるというのは大きな強みだ。しかし、能動的な移動ができないというのはいただけない。総じていえば、ツーデックスは魅力を多大に有しながら、登録するほどではないかという所。昇華まで考えに入れれば、昇華の条件が判明したときには登録の価値ありとなるかもしれない。


「さて…。ここらで、もう一度確認しておくか。もし俺が状態異常を付与されたなと思ったら、お前たちはカードに戻ること。戻る判断や誰を戻すかに関しては、今のところセムに任せたいが、お前たちは横のコミュニケーションはできるのか?」


 セムが頷く。その行為には、コミュニケーションは可能であるという意味のほかに、自分に任せろと言う自信が見て取れた。


「よろしい。では任せる。みんなもいいな?……ならば、次のモンスターの討伐に向かおうか。」


 ヒュアの案内では、障害物を無視した最短の距離にあるモンスターの存在を最優先に知らせてくる。しかし、俺たちにとって障害物は障害物であるし、ヒュアにはそれらは認知できない。総じていえば、コミュニケーションエラーが起きないようコミュニケーションを密にすることが、ヒュアを索敵役に使う際に重要なことだと、最近俺は気が付いた。


 





―――――あとがき

 こんにちは。最近はまたコロナウイルスが猛威を振るっていますね。それによって思ったよりは投稿のために時間を割くことができています。しかし、コロナウイルスは後遺症などもあり、依然として軽視するべきではない病気です。コロナウイルスに慣れてしまうことは生きやすく、危険なことだと思いますので、皆様もお気をつけて。では、また明日。

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