第48話 存在の価値

「ケルバウ、ね…。」


 その能力から明らかな耐久性能と攻撃性能は、まさしく不死種というだけのことはある。鎖による制限を受けるからこその能力の強大さと考えれば、それは束縛の中で自由を得る人間のような存在であった。


「なるほどなるほど…。」


 名前決めも慣れてきたものだが、これを後何度するか考えると少しばかりの苦痛を感じるというものだ。しかしながら、やはり蘇った童心というものは強く、総じて見ればこの名づけの行為はまだまだ楽しいものではあるのだが。


「ロゥにしようか。」


 その一言で、ケルバウに名前が設定される。その過程を経て、彼は大きな括りから独立し、ロゥという孤立した一となったのである。


******


 さて、登録されたことで、ロゥの自由を制限していた鎖はその一端を解放した。それにより、ロゥに仮初の自由を許していた束縛も、その仕事を終える。であるならば、その番いを見つけることが、今の最優先事項であることは間違いがない。


「鎖の片側。ロゥの自由を制限し、同時に自由を許可する鎖の一端の繋がる先には、果たしてどの程度の制限があるのだろうか。重さもなく、固定されてもおらず、邪魔なほどに大きくもない物体をその鎖につなげ、それで束縛がなされたと、そう考える方が愚かだ。ならば、許される大きさ、重さ、そう言ったものを検証しなくては…。」


 しかしながら、現在手元にあるものは、軽くて小さいものばかり。これでは対照実験は機能しない。そう思って鎖の一端を手に取ると、その鎖は手首に絡まり、溶接されたかのように固定される。同時にロゥの炎が復活したことで、少なくとも俺という物体は、束縛する機能を果たすと確信した。


「な、なるほど…。」


 鎖の長さは、おおよそ20m。それは、飼い犬としてみればあまりにも自由ではあったが、戦力の制限としては十分なほどの短さだった。


「なんだか、傍から見れば飼い犬と飼い主だな。」


 凶暴そうだった面持ちは、味方としてみれば愛くるしささえ感じる。まったくと言っていいほどその様相は違うが、それはブルドッグに似た現象であった。


「よし。では、ヴァルハラに侵入しようではないか。」


******


 現在の顕現内容は、


・ロゥ:2

・セム:7

・カゲロウ:1

・オルデラ:4

・ヒュア:6


 合計すると、20。ヘクシーやロクロは、窮屈な内部状況にふさわしいモンスターとは言えないために送還している。ヒュアによる、生命感知とすら言い換えられる索敵能力と、カゲロウを用いた威力偵察。護衛としては十分なほどの戦力として、ロゥやオルデラを傍に置き、搦手を使えるセムも顕現させる。この布陣が、閉所かつ未知の領域の最善であるというのが、俺の持論だ。


 ヴァルハラは、ヒュアに言わせれば光の群れ。小さく弱い光が集まって、大きな一つの光に見えるほどだということだ。それはすなわち、多くの敵を内包する要塞であるということ。なればこそ、その侵入には警戒を要する。目視によって最も近い敵の気配を確認したところで、その頭には疑問符が浮かんだ。


「あれは…。花瓶?」


 見たところただの花瓶であるが、ヒュアの弁を信じればあれは確かにモンスター。そのため、確実性を重視してオルデラに殺害を命令した。


『モンスターの殺害を確認。情報を取得します。』


******


種族名:ポルタ―(280属)

カテゴリ:【悪業種(5)】【飛行可能種(7)】【無機種(8)】

能力アビリティ

・騒々しいひと時

 体を揺らし、ぶつけ、音を出す。その音には、生命を興奮させる効果がある。

・愛すべき静寂

 完全に静止しているとき、その体は非常に硬くなる。


*ポルタ―

 隙を見つけて音を鳴らし、敵を興奮させる。その効果は微弱なれど、長時間効き続ければ徐々に精神は疲弊する。その悪質さから、異様に硬い物体を見つけた場合、まずはポルタ―ではないかと疑うべきである。


******


「ふむ…。こんなモンスターもいるのか。」


 このモンスターに対する驚きは大きい。カテゴリを三つも持つということが一つ。その中に、【既死種】【未死種】【不死種】のいずれもないということが一つ。そして、敵を殺害することに特化した能力を持たないということが一つ。

 今まで、その形態や能力によって、度のモンスターも一つは敵を殺す手段を持っていた。それがこのモンスターにはない。言い換えれば、完全に持久戦、嫌がらせに特化している。それは、とても新しいことであった。







―――――あとがき

 こんにちは。ケルバウの名前は、ロゥとしました。これは、英単語Allowから取っています。鎖によって自由を失うことで、自由を得るための力を得ているというケルバウを描いているうちに、法という縛りの中で自由になれる人間のようだと思ったからです。

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