第47話 抑えつけられた衝動
ヴァルハラの入り口、玄関先とでも言うべき位置に存在する一匹の番犬は、その身に纏う炎を用いた遠距離攻撃手段を持ちつつも近距離攻撃にも強力な耐性を有する。その圧倒的な力は、しかしその首につながれた鎖によって解き放つことを禁じられ、存在そのものが鬱屈しているようだった。
しかしながら、オルデラの昇華によって獲得した、あらゆる存在に死を与えうる力によって、すべての存在は現実的に登録可能になったと言えよう。本質的に登録不可能な存在でありながらも、現実的には登録可能であるモンスターは、彼の瞳にはひどく魅力的に映った。
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睡眠という状態異常は、確実に効果がある。そして、ヘクシーの移動能力をもってすれば、かの犬の攻撃は回避可能であるということもまた、現在の情報の中で確定している事実である。とすれば…。
「とすれば、あの犬はオルデラという一欠片によって登録可能な存在にまで落ちぶれた。いや、俺たちが成り上がったというべきかな?ともかく、そうなったからには、あの犬は確保したい。頼むぞ。」
能力の性質上、登録モンスターに依存するのはもはや当然のことであり、それは依存というよりも、その全てを含めて自分の力という理解が本来的である。しかしながら、少しながら感じてしまう惨めな心もまた、彼の若さの証明である。
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ロクロに騎乗し、炎の渦の流れ弾に対応する。その間にも、セムとヘクシーは対象を睡眠状態へと誘う。ここで必要なのは睡眠の状態異常のみであるために、ヘクシーが回避のみに集中できるという事実は、強烈な追い風となっていた。
眠りに落ちたモンスターの傍らで、ロクロをオルデラへと変える。その豹が見つめた存在にはすぐに対称的な図形が浮かび上がり、その部位をオルデラが嚙み砕かんと行動すれば、抵抗できぬ敵に待つのは死のみである。しかしながら、彼の主は殺害以外の選択肢をその掌に持っていた。それは、生存という生命体の最大目標を最大の幸福であるとするならば、間違いなく敵対者たるモンスターにとっての幸いだった。
『殺害可能状態にあるモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ2【不死種】に該当。最適なスートは、
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種族名:ケルバウ(2属)
固有名称:設定可能
カテゴリ:【不死種(2)】
・重ね火
四つの足の踵のあたりと肺に、炎を生み出し続ける器官を持つ。その炎は、生み出されてから数分間存在し、その間簡易なコントロールができる。
・闘争適応
その体は、厚く、硬い毛皮で覆われている。その毛皮は炎の熱を受けて新しく生まれ続けているため、その皮膚を突破する手段を持つ生物は非常に限られる。
・束縛
その首輪につけられた鎖は、千切れることも、朽ち果てることも決してない。その鎖によって行動を制限されている間は、他の能力を完全に使用できる。しかし、その鎖の片側が自由であるときは、鎖をコントロールすることができる代わりに他の能力が使用不可能になる。
*ケルバウ
炎を操る、イヌ型モンスター。その見た目は、さながら地獄の番犬である。鎖に繋がれているため、その範囲に入ろうとしなければ攻撃されることはない。しかし、一度刺激すれば、そもそも近づくために機動性がいるうえ、近づいても有効な攻撃をすることが困難なために非常に危険なモンスターである。
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「ふふふっ……。」
気が付けば、その口からは笑みが漏れていた。強大な力を手に入れる喜び、強大な力を従えたという征服欲の刺激、そう言ったものが、ケルバウに対しては非常に大きなものだったからである。しかしながら、その傲慢さを理解して、嘲笑しながら客観視する自分も、彼の中には存在した。そのおかげで、彼は極度に冷静さを欠いたり、はたまた危険に陥ったりということが少ないのかもしれない。しかし、勝利の美酒の前には、それは少しばかり不愉快な存在であった。
―――――あとがき
こんにちは。昨日は投稿をお休みさせていただきました。最近、私生活でのタスクが多く、休みをいただくことが増えると思いますが、もうしばらくお待ちいただければと思います。
ケルバウという名前は、ご想像の通りケルベロスと、犬の鳴き声からとったものです。かなり安直な種族名ですが、なかなかかわいらしい響きで、良いのではないかと思っています。
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