第45話 防衛機制

 その変化は、またしても突然であった。しかしながら、前提となる知識の有無はその心の動きを大きく変える。驚きは喜びに変わり、混乱は落ち着きへと変化するだろう。ヘクシーの昇華という一件を経て昇華という概念を体験したことで、昇華とは既知の現象となったのだ。


『登録モンスターの昇華を確認。なお、この昇華によるカテゴリの変化はありません。』


 昇華の一連のプロセスを、今度はしっかりと観察する。倒したはずのモンスターが、命無きまま動き出す。ほぼ同時にカードに戻ったオルデラは、カードの状態で光を放ち、動き出したモンスターを吸収した。ヘクシーの時にも経験した流れではあったが、注意深く観察することでわかってくることもあった。


「しかしまあ、ひとまずは、オルデラを顕現。」


******


種族名:ルーラー(4属)

固有名称:オルデラ

カテゴリ:【未死種(4)】

能力アビリティ

・致命猫の系譜

 ヤーガーの有する能力を全て使用可能。

・強制執行

 自身の有するその牙と爪をもってして、なお致命傷を与えられない対象に対し、致命傷を与えられる部位を概念的に付与する。その部位は対象も視覚的に確認することができる。


*ルーラー

 関節、頭蓋、臓器など、活動維持のために守るべき部分にのみ骨の鎧をまとった大型の猫モンスター。その攻撃によって致命傷を与えられないモンスターは存在しないが、強制執行の対象となったモンスターは致命傷を与えられる部位を確認できる。対象を殺害するまでルーラーがその能力をキャンセルすることはないと言われるが、その理由はプライドに由来すると考えられる。


******


 オルデラは、基本的な体つきは変化していないものの、全体的に見れば少し縮み、小さくなったように感じられる。その頭には頭蓋骨をかぶり、それ以外にもところどころ白く無骨なプロテクターのようなものを纏っている。大きく変わったのはそのあたりだが、よく見れば盃のような形に削り取られたアクセサリーのようなものをその首にかけていた。


「これで、オルデラは十六体目での昇華が確定したな。今回もスケルトン相手での昇華だったが、スケルトンはトリガーなのか…?」


 前回と同じような環境、要素で昇華したために、類似点は多い。この類似点を変えながら検証を重ねていけば、いずれは条件も判明するだろう。さて…。


「この書かれ方…。もしかするか?」


 今考えていることが可能であった場合、この階層での生きやすさが大きく変わる。ぜひとも確かめてみたいところだ…。


******


 突然だが、この世界に、いつもはそこにあるのに必要な時に限ってそこにないものというのは多い。耳かき、爪きり、体温計に、片方になった靴下。探せど探せど見つからず、あきらめて日常に戻ると出てくるそれらと似た現象に、今彼は陥ってしまっていた。


「いない…。早く出て来いよ…。」


 今彼が探しているのは、霊モンスターである。視覚的な捜索が困難なため、移動し、その場に留まり、また移動しを繰り返すことで、あちら側から攻撃されるのを待っているのである。しかし、一度目の接触のせいか必要以上に避けていたために、霊がどの程度存在するのかさえ知らないという状況は、まさしく終わりのない戦いである。展望が見えないという不安と戦いながら、それでも彼は捜索を続けた。


******


「ん?来たか?」


 移動すること数十度。ようやく違和感を感じたが、かなり小さな違和感のため、確信するほどではない。しかし、それが時間に比例して大きくなることで、その予想はすぐに確信に変わった。


「オルデラ。ここには今、霊のようなモンスターがいるはずだ。倒せるか?」


 一度目の問いに対し、オルデラは首を横に振って応える。


「なら、5 of the ▲グレーの5を使用。……これならどうだ?」


 可視化のデバフを駆けることで、その姿が晒される。その状況を確認し、オルデラは首を振る。その方向は、先ほどとは違って縦であった。


「よし!」


 喜びの声とともに、オルデラは行動を開始する。オルデラに凝視されたことで、霊の胸には十字と円を重ねたようなマークが浮き上がる。それを見て手を俺から離し、かばうような姿勢を取った霊だったが、その時にはすでに世界の声は俺に届いていた。


『殺害可能状態にあるモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ3【既死種】、カテゴリ6【非実体種】に該当。最適なスートは、クラブです。』


「登録する。使用カードは、6 of the ♣クラブの6。」







―――――あとがき

 こんにちは。ようやく、霊を殺せるようになりました…。同時に、カテゴリ6【非実体種】もお披露目です。実体を持たないために物理攻撃をすべて無効化するカテゴリのため、非常に強力なカテゴリだと思います。そのため、彼らにしかできないことを作り、彼らではできないことも作るということを目標にしていこうと思います。

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