第44話 百の肢

「おっ。次はあいつだ。」


 オルデラを、発見したリビングデッドにけしかける。これでようやく三体目。やはり、狩りつくしてしまった影響でその発見体数は少ない。しかし、来た方向とは進路を少しずつずらしているため、もうしばらくすればその発見体数も上がってくるのでは?という希望的な観測もある。もうしばらくはこのままでいこう。


 そう考えている間に、オルデラは三体目を狩り終える。やはり難なくその工程を終了したオルデラは、飛び跳ねながら戻ってくる。その様子に、具体性など欠片もないものの昇華後のオルデラを幻視した。


******


「オルデラ…。いや、待て。」


 リビングデッドを発見したため、例のごとくオルデラに狩らせようと考える。しかし、遠目に見えるその姿を凝望し、すんでのところでその命令を押しとどめた。


「あれは…。マミーかもしれないな。」


 さらに近づけば、その予想は確信に変わる。登録候補第一位たるリビングデッドの出現は、登録後の未来を確定させるカギであった。


「奴は登録したいんだ。致命傷を避けて攻撃できるか?」


 マミーとは、その体に纏う包帯、布に、移動から攻撃、防御に至るまですべてを依存するモンスターである。そして、誕生後間もない個体であれば、その自由度は低い。総じていえば、オルデラであれば、たとえ敵を殺さないという究極のハンディーキャップがあったとしても、その勝機はゆるぎないものである。


******


『殺害可能なモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ3【既死種】に該当。最適なスートはクラブです。』


「登録する。使用カードは、3 of the ♣クラブの3。」


 3は、その数字の小ささや、昇華先の受けとしての優秀さから登録をためらうカードではある。しかし、汎用性の高さや成長するという特殊性を鑑みて、登録すべきという判断を下す。その判断は、3 of the ♣クラブの3に登録された毒針が今のところ使い道を見つけられていないという状況が後押ししたのも確かであるが、やはりマミーというモンスターへの期待と興味がその根本であった。


******


種族名:マミー(3属)

固有名称:設定可能

カテゴリ:【既死種(3)】

能力アビリティ

・生ける屍

 呼吸、食事、睡眠など、あらゆる生命維持活動が不要である。また、寿命の概念を持たない。

誕生日デス・アニバーサリー

 誕生から一年が経過するたびに肉体が生物という枠組みの外で成熟し、強力になる。同時に、その思考能力も上昇する。

 

*マミー

 完全に乾燥した死体が、付近の多量の布と一つになったモンスター。誕生日デス・アニバーサリーにより、他のリビングデッドと違ってその身に纏う布を自在に操作できるようになっていく。しかし、その移動能力や肉体性能は低く、布を駆使した移動、戦闘ができるようになるまでは隠れ潜んで成長を目指す個体が多い。


******


「名前…、名前……。」


 オルデラがマミーの懐へ突撃を仕掛け、四肢を抑え込み、その頭蓋を口腔に納めるその過程を見ながら、マミーの名前を考える。結局登録が完了してもその名前は決まり切らなかったため、歩きながら決めることにした。


「うーん。包帯…。布…。乾燥…。」


 マミーを表す言葉を連ね、連想ゲームのような要領で名前を考える。そのような場合、その名前から由来を想像するのは困難になるが、彼らの間にさえその共有があったならば、それは些細な問題である。


「マニュセントにしようかな。」


******


 これで、


・カテゴリ1【蟲種】のカゲロウ

・カテゴリ2【不死種】のヘクシー

・カテゴリ3【既死種】のマニュセント

・カテゴリ4【未死種】のオルデラ

・カテゴリ7【飛行可能種】のセム

・カテゴリ10【騎乗可能種】のロクロ

・カテゴリJ【兵種】のラビウルフたち

・カテゴリQ【王種♀】のマーチ


が登録されたことになる。登録されていないカテゴリは、あと5つ。判明済みは【悪業種】、【無機種】。そろそろすべてのカテゴリも特定出そうだし、そうなればその次の目標は全カテゴリの登録になろうか。真っ新だったキャンバスは、そろそろ下書きが終わるかというところ。ここから色を塗り、切って張って、自分だけの作品を作るのだ。試行錯誤し、その過程が結果となって報われるとき、人は他とは異なる快感を得るのである。






―――――あとがき

 こんにちは。今回登場したマニュセントは、手を意味する『manu』と百を表す『centum』を組み合わせた言葉です。ミイラのイメージとして、その包帯を手足のごとく操り、まるで手足が無数にある様だというものがあります。そこからムカデを想像し、『centum + pede (足)』のpedeを手に変え、この名前が決定しました。

 名前は、読者様方の共感を得るための重要な要素だと思っています。今後も、名前はこだわって考えていきたいと思っています。

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