第37話 基礎工事

 霊は、その特徴から接敵を避けることが難しい。さらに言えば、ラビウルフたちを警戒役とした休憩、睡眠も難しい。睡眠中に接近を許してしまえば、そのまま動けない程に弱体化させられ、なす術無くやられてしまう可能性があるため、俺は今、ヘクシーに乗って休憩している。


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 第三階層は、開けた視界と障害物の少なさ、乱立する墓が特徴的な階層である。そびえ立つ宮殿を除けば。ゆえに、この階層ではヘクシーの強みをほぼ確実に活かすことができる。その安定した走りといざというときの離脱能力を鑑みて、俺はヘクシーに乗りながら眠ることまで視野に入れている。


 この階層を走り回りながら見渡せば、モンスターの少なさに気が付くだろう。例などの不可視のモンスターの存在があるためその総数はわからないが、あくまで視覚的な世界に限れば、モンスターはごく少数であると言って差し支えないだろう。

 その、ごく少数のモンスターの内の一体に目を向ける。あれは、広い括りで言えば生ける屍。リビングデッド。狭い括りだと、スケルトンになるだろうか。筋肉なくして自由に動き、靭帯なくしてその骨は一つの構造を保つ。脳細胞なくして思考を有し、神経なくして感覚を有する。肉の枷から解き放たれた不自然な生命は、人間の形を持って行動していた。


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「あいつはさすがに物理攻撃が効くだろ。ヘクシー。奴のほうへ向かってくれ。」


 戦力となる気はしない。登録に魅力も感じていない。が、登録確認の段階まで持っていきたい。それは、まず第一に、この階層でも戦えるという確信を持つため、第二に、既死種カテゴリの存在を確かめるため。霊の存在によって、この階層で戦うにあたって戦力が足りていないのではないかという不安点が顔を出した。その不安は、いざというときの決断に致命的な影響を与えるだろう。ゆえに、ここでその一部を払拭しておきたい。既死種カテゴリの確認も大事だろう。既死種に対応する数字を知ることで見えてくる展望もあるだろうから。


 ヘクシーは、あくまでその能力は移動に偏っているものの、移動に偏った能力を駆使し、縦横無尽に駆けまわりながら突進する様を見ればその意外な攻撃能力の高さに気が付くだろう。


 骨だけになった死体は、関節の自由度が増し、痛覚が鈍ることでその猛々しさもかなりのもの。しかし、筋肉がなくなっているためにその動きには柔軟性がなく、同時にその攻撃には重みがない。骨と骨をつなぐ謎の力も、どうやらそれほど強いものではないらしく、ヘクシーによる立て続けの突進によってその構造は破壊されていった。


 バラバラになった骨の一部をヘクシーが踏みつぶし、骨が粉へと変わったところで声が聞こえる。その声は、すなわち俺がスケルトンを殺せるという証明であり、後押しである。だからこそ、その声にはいつもよりも少しだけ感動があった。


『殺害可能なモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ3【既死種】、カテゴリ8【無機種】に該当。最適なスートはクラブです。』


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「登録しない。情報の取得を。」


 とりあえず、魅力もないうえにヘクシーに完封される程度の強さのモンスターであれば、登録する価値は薄いだろうということで情報を取得する。同時に、新たな情報が得られたことに対する喜びを享受した。


「既死種はカテゴリ3か。これは、おそらく死をルーツにするモンスターに共通するカテゴリだろうが、その価値の高さに直結するだろう。3は、7つのスートすべてを顕現させられる最大の数だから。無機種という新カテゴリの登場もうれしい。無機種…。無機…。無機物?無機物は、まあ大まかに言えば炭素が含まれない物質だが、骨には有機物も含まれそうな気がするな…。無機物の割合が高ければいいのか?分からねえ……。」


 考えているうちに、情報の取得は完了していたらしい。いったん考え事は後回しにして、スケルトンの情報の整理に入ることにした。


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種族名:スケルトン(24属)

カテゴリ:【既死種(3)】【無機種(8)】

能力アビリティ

・生ける屍

 呼吸、食事、睡眠など、あらゆる生命維持活動が不要である。また、寿命の概念を持たない。

誕生日デス・アニバーサリー

 誕生から一年が経過するたびに肉体が生物という枠組みの外で成熟し、強力になる。同時に、その思考能力も上昇する。


*スケルトン

 リビングデッドのうち、肉を持たないものの総称。リビングデッドはすべて共通した二つの能力を持ち、生まれてから徐々に徐々にその力を強める。また、肉体的に成長してもその外見は大きくは変化しないため、外見から判断することは難しい。


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―――――あとがき

 こんにちは。今日から共通テストですね。読者の方に受験生がおられるかはわかりませんが、皆様がリラックスし、力を100%発揮できることを願っております。

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