第35話 階層樹
その木は、その幹の様子から判断すれば木というだけの代物。その長点が地の更に下まで伸びていることでその全貌すら確認できぬその大樹は、他と一線を画する存在感を放っていた。
「……。」
自分がちっぽけに感じるほどの雄大な自然にさらされると、人間は言葉に詰まってしまうだろう。なぜならば、そのような自然は、世界には自然に存在するが、社会には不自然にしか存在しえないからである。
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「…よしっ!」
しばらくの間その存在感に圧倒されていたものの、数分もすればいかなる存在にも慣れてしまう。慣れと共に思考が戻り、そうしてようやく、この大樹の存在の理由に意識が向かった。
「この洞は…。やっぱりか。」
その洞から見下ろせば、その先はやはり底なしの闇。その光景を見て、確信する。この洞の先は、第三階層。次なる冒険の舞台であると。
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さて。第三階層を見つけたならば、この第二階層でやるべきことがある。それは、水の確保。第三階層に水があるかもわからないし、第二階層のように木をつたって上に戻れる保証もない。命をつなぐものだけは、少なくとも確保しておきたかった。
「行くか…。」
木をよじ登って水をくむこと数度。初めから持っていた水筒と、手長の拠点からとってきたもの数個。あいつらと同じ水筒と考えればかなり嫌だが、まあ、しっかり洗ったし良しとしよう。
その足を、洞にかける。新たな世界の境界に立ち、一度深く息をする。邪念を吐き、決意を吸い込み、彼は次のステージに飛び降りた。
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「登録番号A0160-951224。能力なしっ、と。」
今日もまた、確認作業が終わる。これまでに能力を得た人間は、彼女の担当地域では二人。日本で何人か、世界では何人かは、彼女よりももっと上の人間が知る事実。彼女自身も、そこまで興味を持ってはいなかった。
「ええっと…。」
彼女は、情報を知る権利はなくともかなりのエリート。そもそも、ダンジョン、能力といった機密事項に関われている時点で、限られた数十人の一人である。
彼女の担当する地域で、能力を発現したものは二人。一人は、佐藤という名の人物。もう一人は、渡邊という名。この二人のほかに百数十人程度が、現在ダンジョンに入った経験のある人物たち。彼らの情報の管理が彼女の仕事である。
「今のところは大体1.5%かぁ。何なんだろう。能力って。」
もちろん能力の詳細は、国の知るほぼすべてを知る彼女であるため、その疑問はもっと根本的なこと。何者かに与えられたのか、人間に生来備わっていたのか、危険は?副作用は?安定を求め、勉学に励み、今の地位を手に入れた彼女にとって、能力などというものはリスクを負ってまで求めるものではない。だが、仕事としてかかわり続ける限り、この疑問とは長い付き合いになるだろうと彼女は今考えていた。
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登録番号:A0081-0303
フリガナ:ワタナベ マキ
名称:渡邊 真希
能力名:
備考:申告によると、五大元素を基礎とする魔術の設計、使用が可能とのこと。また、実用は現段階では不可能であるらしい。
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―――――あとがき
今回は短いですが、ご容赦ください。第三階層に向かうまでの描写ではさすがに少なく、地上の現状を書いてもまだ短くなってしまいました…。
次回からは第三階層です。ちなみに、私のおおよその感覚で言えば、現在はダンジョン生活二か月といったところでしょうか。
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