第34話 金将と香車
「ええっと…。」
周りはマーチたちが守ってくれているし、登録に要する時間制限もない。彼らの名前は、少しくらいは時間をかけて、真剣に考えたいものだ。それはもちろん彼らのためでもあるし、同時に俺のためでもある。ゲームでも何でも、自分の使うキャラ、自分の持ち物には納得できる名前が欲しいというのは、人間として当然の欲求ではないだろうか。
「よしっ。バリディアの名前はロクロ。ヤーガーの名前は…オルデラにしよう。」
新たに登録したロクロ、オルデラは、合計で14のリソースを使う。現状で13のリソースを使っているから、今顕現できるのはオルデラだけ。しかし、現在二本とも角を落とし、バリアを展開できなくなっているロクロは、完全にヘクシーの下位互換となってしまっている。角の回復を待つのが、今の最善だろう。
「と、いうわけで……、オルデラを顕現。」
改めてオルデラ、ヤーガーを観察する。黒と黄色を主な色とし、ジャガーよりも黒の占める面積を多くしたような見た目をしたそのモンスターは、ラビウルフとは違ってしなやかな脚を持つ。凶暴性を体現するその爪と牙は、能力による攻撃方法を持たぬモンスターにとっての生命線であることを表すかのように、鋭く、そして硬かった。
「お前の名前はオルデラだ。いいな?」
「グゥフ。」
「今からお前の仕事は、俺たちの数十メートル先を進み、敵を発見すること。発見した場合は、その場に止まれば俺たちは気が付くから。一撃で戦闘不能にできそうなモンスターであれば攻撃してもいいが、できるだけ殺すのは避けたい。分かったか?」
「グフ。」
喉を鳴らすような鳴き声で了解の意を示したオルデラは、いい枝を見つけたのか、近くの一つの木の枝に飛び乗った。
「よし…。索敵ではないものの、移動と潜伏、隠密に適していそうなモンスターの存在はありがたい。カゲロウのように簡易の索敵役としても使えるし、そのまま攻撃に移らせることもできる。オルデラの場合は殺す殺さないの判断を正確にできるから、カゲロウと似た役割でもリソースを3追加で割く価値はあると言えるだろう。」
現在使用しているリソースは17。残りは4。4もあれば、俺も戦えるだけの装備、バフは計算に入れられる。一人で始まり、セムを加え、マーチを加え、ヘクシーを加えたこの旅は、第二階層での戦力拡充をもって、ようやく【
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眠るときは、ふたたびセムの世話になる。セムのリソースは7なので、オルデラは送還する。眠りに誘う吐息の中で、マーチを肩に乗せて眠りにつく。彼ら登録されたモンスターは、睡眠は不要と言えどセムの吐息の中では眠気を誘われるらしく、マーチも俺と共に眠りについていた。
その間の見張りは、ラビウルフたち近衛兵に任せる。残った1のリソースであるカゲロウは、少し遠くまで、起床後に進む方向を決定する意味で偵察に向かっている。この睡眠を、体感では3時間、9時間ごとに行うことで、24時間のうち6時間は眠れているかなという計算。疲れはないとは言えないが、不健康的な生活を送る人よりはよほどましだろうということで、今はこの生活サイクルを繰り返している。
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木の幹のベッドで目を覚ませば、3時間で往復するように帰ってきたカゲロウから報告を聞く。普段であれば、こちらの方向には何もなかった、や、モンスターの痕跡あり、などの報告が効かれるこの時間だが、今回だけは明確に違った。巨大な木と、大きな洞を見つけた、と。そして、今回はこちらに来るべきである、と。
この話を聞く限りでは、次の寝床に良さそうだというくらいの感想しか抱かなかった。だが、平時であれば決定に際して意見具申などないカゲロウからの、いや、登録モンスター全体で見ても初めての意見具申である。他に選択肢もあるわけでもない。行ってみようではないかということで、今日の行動は決定された。
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木の洞。報告ではそうであろうと予想されたそれは、もはや洞というべきではないほどの大穴。そして、さらに大きな違いが一つ。その巨木は、天井から生えているにもかかわらずその頂点が見えない。つまりは、この階層の床に突き刺さり、さらに下の階層に伸びているようだった。
―――――あとがき
こんにちは。ロクロという名が今回出て来ましたが、その由来は
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