第33話 矛と盾と両の腕

「よしっ。」


 鹿の防御が、その片割れとなった角と共に崩れ落ちる。それと同時に鹿の前足めがけて噛みついた豹の後ろ脚に矢を射掛けることによって、その二体は、尽く機動力を損なうこととなった。

 しかしながら、それでも豹は鹿を死に至らしめんと、そして我が糧にせんとする。その頬のあたりにもう一矢を的中させることによって、豹はその場にのたうち回り、そうして徐々に動きを止めた。


『殺害可能なモンスターの存在を確認。登録しますか?対象モンスターはカテゴリ4【未死種】、カテゴリ10【騎乗可能種】に該当。最適なスートは、グレーです。』


『殺害可能なモンスターの存在を確認。登録しますか?対象モンスターはカテゴリ4【未死種】に該当。最適なスートは、クロスです。』


******


4 of the ✚クロスの44 of the ✚クロスの4か…。」


 4 of the ✚クロスの4に登録されていた無音移動は、意外と役に立つものだった。それ以上の価値があの豹型モンスターにあるのかだが…。無音移動は自分の技術で似たようなまねができるということもある。どうすべきか…。


 あまり長い時間考えていては、あの豹は死んでしまうだろう。こういった時、人間は焦って正常な判断が難しくなるものである。そして、するのか、しないのか。YESか、NOか。こういった場合、しないよりもする方を選んでしまうのが、佐藤英雄という人間であった。


「どちらも登録する。使用するカードは、10 of the ▲グレーの104 of the ✚クロスの4。」


 登録されていく二体を見ながら、ふと思う。今まで最適なスートに登録するというのが不文律だったが、果たして最適でないスートに登録することはできるのか。また、その場合のデメリットは?使い勝手のいいカードや現状失いたくないカードが最適な場合は、試してみるのも悪くないかもしれない。


******


種族名:バリディア(40属)

固有名称:設定可能

カテゴリ:【未死種(4)】【騎乗可能種(10)】

能力アビリティ

・代償の角

 角を代償に、自身を保護するバリアを展開する。バリアの効果時間は代償とした角の大きさに正比例し、角は時間と共に徐々に大きくなる。

・代償の足

 移動速度が速いほど、バリアはその強度を弱める。逆に、移動速度を低下すればその強度は上昇する。強度と移動速度は、反比例の関係にある。


*バリディア

 バリアを展開する能力を持つ、鹿型モンスター。移動速度もかなり速く、成熟した個体はその移動速度を代償に、強力なバリアを展開することができる。角が落ちている期間はバリアの展開が不可能だが、その場合はバリアの強度が最弱であるために移動速度は最速となる。


******


種族名:ヤーガー(4属)

固有名称:設定可能

カテゴリ:【未死種(4)】

能力アビリティ

・致命

 敵に一撃で致命傷を与えられる部位を知ることができる。

・跳躍

 目的の場所へ、正確に跳躍する。その際、脚力に大幅に補正がかかり、目的位置の

脆弱性や安全性を事前に察知することができる。


*ヤーガー

 一撃必殺の猫の名を冠するこのモンスターは、その跳躍力で木々の中に潜み、跳躍からの一撃で致命傷を与える。その攻撃に失敗した場合は速やかに、ふたたび跳躍による退却に努め、一つの獲物に執着することはない。


******


「ふむ…。」


 鹿、バリディアの能力が、一度きりではないにしても使い捨てのような能力でなければ、夜などの防御にふさわしい能力と言えた。が、強度や期間、移動速度を時々に応じて決定できる汎用性の高さは魅力か。


 豹、ヤーガーの能力は使い方次第で化けるものと言えよう。致命傷を与える部位を知る能力は、すなわち致命傷を与えない攻撃も可能ということ。跳躍も、この木々の中であれば有用だろう。


 今回使用不可能となった能力は、


10 of the ▲グレーの10:能力阻害(単体)

4 of the ✚クロスの4:無音移動


の二つ。

 今までのようなダンジョン暮らしを続けるのであれば、敵の能力を知っているということはすなわち一度は撃破できたということなので、能力阻害は有用そうで使い道がなかった。

 無音移動は有用だったが、これから先、4も無音移動にリソースを割ける場面は減っていくだろう。そう思えば、悪くない判断だったのかもしれない。


 いずれは、すべてのカードに何かしらを登録したい。それは、彼のわがままであり、こだわり。能力という、与えられた力の中で、なおも与えられた孤高の遊戯ソロという能力は少し面白くないもの。登録カスタムという能力は、いうなればまだ白いキャンバス。これからどう自分の色に染めるのか、そこに面白みを感じているのだから。






―――――あとがき

 余力はありました。次回は名前を考える回になると思います。ジャガーの名前の由来、ヤーガーは一撃必殺の猫という意味らしいですが、作者は、一撃必殺という単語が、最近では安く扱われているような気がしています。何でもかんでも一撃必殺では物語性がなくなるために、本来はそうやすやすと使っていい単語ではないというのが、私の持論です。

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