第30話 権利と義務と責任と

 起きる。食う。報告を受け、手長の拠点にあったアイテムでも調べてみる。偶に帰還するカゲロウからの報告を受け、おもしろそうな場所に赴く。モンスターを見つけたならば、観察し、初撃を確実に命中させ、その後確実に情報を得る。登録したい、したくなるモンスターがいればいいのだが、残念ながら、未だそんなモンスターには出会えていない。

 というのも、この周辺でカゲロウが見つけてきたモンスターたち。四度の睡眠を超えて三体のモンスターを見つけてきたカゲロウだったが、それらはいずれも手長だったからである。


「もう三体目か…。これは確定か…?」


 この四、五日、手長と接敵するたびにある予想が浮かび上がった。すなわち、手長の生き残りが未だこの周囲のモンスターを狩っているからこそ、この周囲にはモンスターがいないのではということ。王の錫杖という能力によって王の遺言は届けられたはずであり、奴らの能力、行動は停止しているはずだったが、この三匹に共通していたある能力によってその疑問も氷解するに至る。その能力の名は、【戦闘狂】。戦闘兵のみが、一定確率でもって生まれるその能力は、闘争本能という己からの命令を至上とする狂気の果てにのみ存在するチカラである。


******


・戦闘狂(稀)

 戦闘中、一切の命令は効力を失う。


******


「この能力…。改めて考えると、不吉だな…。」


 この能力の真に考慮すべき点は、が、効果を失うということ。この文章、単語には、王種という言葉は登場しない。その意味を最大限、考えすぎと思えるほど裏の裏までその意味を考えるならば、


・王種でなくとも、他種、もしかすると人間にも命令を与えられるモンスターがいるということ。

・命令を無効化するモンスターが他に存在すること。


 を考慮しなければならなくなったと言えよう。

 一つ目は、俺のようにモンスターを従える能力を持つ、物語風に言えば召喚士サモナー系、調教師テイマー系の能力を持つ人間が悪用する可能性が大いに考えられるが、それを言うならば能力アビリティという超常の力そのものがそうだと言える。つまりは、俺が気をる付ければ問題なく、逆にそれ以外にできる事もないということだ。

 問題は二つ目。特に、俺のという能力が、場合である。わざわざ貴重な枠を潰したにもかかわらず、独断行動をするモンスターなど扱いに困る。俺は登録したモンスターたちを、家族としても見ているし、戦友という捉え方もしている。しかし同時に、彼らは俺の持つ最大の戦力であり、唯一の戦力でもあるのだ。軍隊に立ち向かうとき、その手に持つ銃が己の判断で弾を出さない可能性があるとしたらどうだろう。その判断は正しいのかもしれない。だが、そこにある勇気には不安が混じるだろう。その可能性を認知してなおこれまでと同じように生きられると、それほどに器用な人間だと、俺は自分に驕ることなどできそうになかった。


「そう考えれば、命令無視の力なんて支配下にあるモンスターに多いのだろうから、王種の登録には少し信用になるべきか。命令無視がちらついていざというときにきれなくなった切り札なんて、腐るべくして腐った宝だ。」


******


 その後再び、片手では数えられなくなった白夜の夜を超える。寝ぼけ眼で、今日もまた退屈な日かと、そんなことをふと思う。この数日は、安全な拠点で寝起きし、もはや戦い慣れた手長と戦い、不味いだけの肉を食む。自分で考え、そして納得した、効率的な生活方法である。だが、考えれば、冒険のない生活が嫌で、ここまで来たのではなかったか。冒険のない生活。つまりは、安定した生活。俺が飛び出してきたはずのその生活に、いつの間にか自ずから飛び込んでいたことを悟って、どこか少し恥ずかしくなった。


「よし。この拠点は、睡眠すらままならぬ時などには非常に貴重な建造物となり得るから、場所自体は把握しておくとして…。いったん放棄しよう!」


 第一階層で一度決定された信念を、かたく施錠したこの選択。この判断は、安定との離婚届けであり、人間性との別離の証であった。






―――――あとがき

 こんにちは。この回で、手長の戦闘兵の稀少能力、戦闘狂が改めて登場しました。手長の戦闘兵の多くは長に付き従い、主人公討伐に向けて進軍していたために戦闘中という条件を満たしていませんでした。一部、進軍中に戦闘状態にあったもののみ、現在も生き残っているということになります。

 また、描写があったように、この第二階層は常に昼です。そういった意味でも、四方を壁に囲まれた拠点というのは、寝やすい環境であったことは間違いがないです。

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