第25話 仮住まい

 長々と聞かされる世界の声。その声を尻目に、いや、この場合は尻耳かな?まあ、その声を聴きながら、俺は手長族の拠点に向かった。


 手長族の拠点には、多くの罠が仕掛けられている。それは、長を外敵から守るためのもの。気を抜けば味方であっても容赦なくかかるだろう位置に仕掛けられた罠を見て、改めて手長族が長を中心として成立していることを実感する。しかしながら、その罠に使われるのは蔦や枝。きわめて視認性の悪い糸や爆発物、電気回路がない以上、罠だけに注意を向けていれば発見することは可能だった。


 罠に気を配るがゆえに時間がかかった拠点捜査だったが、数時間の後に遂に長の住処を発見する。その部屋は、ほぼ植物に由来する材料しかない割には小綺麗な装飾が施され、一段高くなったところに座椅子のようなものがある。その部屋は周囲の全ての部屋に通じており、勝手に入れないようになのかて世の閂の湯なものまで取り付けられていた。


「少なくとも向こう数日は安全だろう。今日はここで眠るとするか。」


 一階層のように狭い通路がないこの階層では、セムの吐息による安全確保は難しい。また、マーチと近衛による警戒も、圧倒的に数が不足している。そのため、この部屋のように警戒すべき方向が限られ、セムの吐息を活かしやすいという地形は、今の手札を鑑みれば非常に守りやすい地形であった。唯一警戒すべき放火に関しても、生木は燃えにくいことやこの階層で火を扱うモンスターの存在を危惧するほどの余裕はないことなどを考えれば、十分な立地と言えよう。


「…と、いうわけで、全カード送還後、マーチ、ハートの近衛兵、セムを顕現する。」


 19/21を使用し、今持つ中で顕現できる最多のモンスターたちを顕現する。


「ここを、俺たちの拠点にしようと思う。というわけで、セムとマーチ、近衞二匹はこの部屋の警備だ。残りの近衛は、この拠点の把握を頼む。悪いが俺は仮眠をとる。」


「ピュッ!」


******


『所有可能なアイテムの存在を確認。登録しますか?対象は、クラブに該当します。』

『所有可能なアイテムの存在を確認。登録しますか?……。』

『所有可能なアイテムの存在を確認。……。』

『所有可能なアイテムの存在を……。』

『所有可能な……。』

『……。』


******


 世界の声に催促され、目が覚める。数時間程度は眠れただろうか。ひとたび意識が完全に覚醒してしまえばもう一度眠るという方が難しいため、そして何より気になる情報が聞こえてきたため、腰を入れて情報精査に入ることにした。


「まずは手長族に関してかな?分かったこととしては、カテゴリ13、【王種♂】が確定したこと。いきなりすべての手長族が動きを止めたのは、王の遺言という能力によるものだろうということ。回復の能力を持つモンスターが存在すること。王種♂に関しては予想通りだ。王の遺言はうれしい誤算という感じ。

 そして何より、回復の能力を持つモンスターがいるという事実。俺の能力にも回復関連のものがあるから予想はしていたが、これでハートのカードも登録しやすくなった。回復モンスターも探していきたいな…。というか、殺さずに情報を取得するモンスターはいないのかな?そんなモンスターがいるなら優先度は最高だが。

 そして最後に、。能力情報からアイテムが所有可能だということは把握していたが、今までその選択肢を提示されたことはなかった。早く何が所有可能になったのかを確認し、登録できる条件を把握しておかなければ。…………うん?」


 ふと気が付くと、探索に出したはずの近衛たちが帰ってきている。いや、今は帰ってきているが、すぐにまた探索に出るのだろう。ではなぜ今帰ってきているのか。その理由はすぐに判明する。石を研いで出来たような包丁、ナイフ、木で作られた簡易的な弓など、手長族手製の品々を運んできていたのだろう。視界の端に山のように積まれたそれらが存在する。


「あれか?所有可能なアイテムというのは。」


 確かに粗末な品ではあるが、モンスターの作った品であれば、なるほど確かにという枠組みに当てはまるだろう。条件は何だ?モンスターが使用すること?製作すること?はたまたダンジョン内で加工された品だろうか?この条件は至急把握すべきだろう。人間の作ったものでもいいのか、ダンジョン外で加工されているものでもいいのか。この辺りも調べてみたいが、わざわざダンジョンの外に出るほどの魅力は感じないし……。

 まあ、意識して調べればすぐわかるだろう。俺は楽観主義に徹することを決めた。







―――――あとがき

 こんにちは。明日は予定が入っているため、投稿が間に合わない可能性があります。あらかじめご了承ください。

 自分で作品を書き始めてわかったことなのですが、自分の書きたい内容というのは最序盤と中盤以降であることが多く、今まさにそこにたどり着けないもどかしさというものを感じています。

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