第22話 第二段階

 手長の斥候の密度は、ある方向に向かうことで上昇する。それ即ち、その方向から斥候が送られてきていることを意味する。であるならば、その方向に向かうことで敵首領を捉えることができ、逆方向に向かうことで効率的な逃走を図ることができる。

 徐々に数を増やす斥候の網を潜り抜けること数時間。その果てに、彼は遂に敵本拠地を黙視することに成功していた。


******


「あれが奴らの本拠地か…。」


 それは、ほかの木々とは比べ物にならぬほど太く、多くの枝を持つ大樹の群れ。それらの持つ枝は複雑に絡み合い、いくつもの小さな層を形成する。

 それらの層には、見た目は斥候と変わらないものから見た目から大きく異なっているものまでさまざまな手長たちが存在する。その様子から、一番高い所、つまりは最も根に近い部分に、長がいると予想された。


「よし。では、ここからは第二段階だ……。」


******


 即興的な作戦。その第一段階は、敵本拠地の捜索。最低目標は敵に発見されないことであり、その任務の完遂は敵本拠地の発見か敵首領の目視によってなされる。

 第二段階は第一段階によって分岐する。すなわち、敵本拠地に残存する敵総数によって。または、敵本拠地の防御力によって。今回確認した敵本拠地は、多くの敵を残しており、潜入も困難なつくり。であれば、第二段階で求められるのは、敵戦力の。誘き出しである。


******


 敵を誘き出す最も簡単な方法は何か。それは、敵の最終目標を晒すことである。敵が誘い出されるだけの価値があるもので釣るというこの作戦は、言い換えればそれだけの価値があるものを失う危険と隣り合わせであり、だからこそ大きな戦果が望めるものである。


「おらこっちだ!」


 敢えて矢をそらした斥候を前にして虚勢を張る。それは、敵を誘き出す演技という側面を確かに持ちながら、同時に敵にはじめて姿を晒すという状況に対しての本心でもあった。


 迫りくる斥候を背に、敵本拠地から離れるようにして逃走を図る。追いつかれず、見失われないほどの速度で。走りながらも後ろに気を配れば、どうやら敵は、ツーマンセルの片方が情報を持ち帰り、もう片方が追跡するという形を選んだらしい。情報をつたえる叫喚は死に際にしか発動できないとするならば、それが正解だろう。

 あとは、情報を得た敵側がどれだけの戦力を割くか。迎え撃てる程度であれば迎撃し、それ以外ならば捲いて敵本拠地に乗り込む。敵が俺のことを過小評価するか、むしろ過大評価しているほどに効果が大きい作戦だけに、今の彼にできる事は少なかった。


 走っているうちに、斥候の移動速度がわかってくる。それ即ち、あとどの程度で敵側に情報が伝わるのか把握できるということ。それほど信用できない体感時間によると、そろそろ敵斥候が本拠地に帰るころ。その感覚を信じて、俺は次なる手を打った。

 通り過ぎた木を利用し、反転する。そのまま敵の勢いすら利用して、矢を敵の眉間に突き刺した。


「……ふぅ。」


 敵の最後の叫びを聞きながら、少しだけ距離を取る。その距離は、斥候とを屠っていた時に接近できた最短の距離。そうして近くの木に登り、枝葉 に潜んで敵勢力を待つ。最短数十分、長くとも数時間はかからないだろうその時間が、敵首魁の余命であり、彼の余命である。


 第二段階が成功する。そのための条件は、


・敵本拠地から戦力が出てくる。理想で言えば半分ほど。

・敵戦力に発見されないこと。

・敵戦力が撤退ではなく、俺の捜索を選ぶこと。


 が挙げられる。そして、その条件で言えば、彼の作戦、その第二段階は成功した。しかしながら、条件がすべてクリアされたのにもかかわらず、その作戦目標は決して遂げられることはなかった。






―――――あとがき

 こんにちは。この作品にも、少しではありますがコメントが寄せられることがあります。それがどんな内容であれ、読者との双方向の繋がりというものはうれしいものです。自分も、初めてコメントが付いた日から日々痛感しております。読者の方々には、カクヨムで少しでも心を動かされる作品と出会いましたら、評価やコメントを残してほしいというのが投降者としての願いです。

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