第21話 第一段階

 まずは、A of the ✚クロスのAを発動。その後、2 of the ♠スペードの2を顕現させることで強化状態が適用され、攻撃力が上がる。

 次は、10 of the ✚クロスの104 of the ✚クロスの4だ。これにより弓の攻撃力が強化され、無音移動が可能になる。

 最後に10 of the ♦ダイヤの10だが、これの魅力はアドリブ力にある。今はまだ使用すべきではないだろう。


「よし…。行くか!」


******


 行くかとは言ったが、結局のところやることは変わらない。隠密行動を続け、発見されるのを遅らせる。変わったことは、発見を避けるだけでなく、こちらが先に敵を見つけ、排除するという行動指針が加わったことである。


 サーチアンドデストロイ。敵を探し、速やかに排除するという作戦行動。それはまさしく、言うは易く、行うは難しである。しかし、その難易度と比例して、期待できる戦果もまた大きい。列挙すれば、


・敵に情報を与えない。

・隠密行動を行う限り、ある程度の安全が確保できる。

・敵総数を減らす

・敵の作戦を崩す


 この辺り。特に、一つ目が大きい。少なくとも手長の斥候に情報を与えれば、殺そうが生かそうが情報が敵にわたるのは確定しているから。

 あとは、いずれ俺の位置が補足されたとき、総力戦になるという事態になった時のために、敵総数を減らし、配置を崩すのも重要だろう…。


 作戦の利点、目標を確認し、自分の心を落ち着ける。なぜやるのか、デメリットは?メリットは?そう言ったことを確認すれば、人間以外と落ちつけるものだ。


******


「…これで三体目。」 


 あれから、三体の手長を倒すことに成功した。幸いなのは、身体強化や攻撃力強化を施した弓であれば、一矢で敵を葬り去ることが可能だったということ。一撃で倒し、速やかに矢を回収してその場を離れることで未だに発見されてはいないが、敵を倒すまでの時間、撃破されるまでの間隔、それらの情報からそろそろ敵はこちらの移動速度を把握し始め、こちらの位置を大幅につかみ始めるだろうと思われた。


「まあ、もうしばらくはこのままだ。あと何体かは倒せるだろう。」


******


 それからしばらくは、その状態が続いた。つまりは、どこかに存在するだろう手長の長が斥候を送り込み、それを発見次第俺が撃ち抜く。しかし、その歪な均衡状態は崩れることとなる。斥候が、二人組ツーマンセルを組み始めることによって。


 二人、あるいは二体で一対となって行動するツーマンセルという手法は、人数が単純に倍必要になるという欠点を持ちつつも、一人が敵の足止めをし、もう一人が確実に情報を持ち帰るという明確な目的、長所を持つ。それは、死に際に確実に情報を届けられる手長の斥候には本来不要な方法ではあったが、今この状況、すなわち、敵の攻撃方法から位置に至るまで何一つ把握できていない状況であれば、一体の命を犠牲にそれらの情報を得られる可能性があるために、試すだけの価値を持った手法であった。


「まずいな。これでは情報を一切与えずに敵を排除することは難しい…。どうする?」


 太めの木の枝の上で唇を噛む。今倒しているのは斥候のみ。敵の戦力の核たる部分ではないだろう。その斥候ですら、両の手で数えきるには少し足りないほどしか撃破していない。すなわち、想定通りの行動はできていても、想定通りの戦果をあげられていないということ。


 しかし、敵は思いのほか斥候を多く持っているらしいことはわかった。つまりは、このままの行動では、いずれじり貧になるのはこちらだ。ならば、いっそのこと手長の長を探し出すか?その周りにはおそらく敵主力が存在するのだろうが……。


******


 ――――――このような感情を、‟焦燥感”という。このような行動は、客観的には、‟しびれが切れた”という。そして、このような行動を、語り手はこう評する。‟迂闊な行動”、と。だが、それらはあくまで、物語の設定上、未来においてその行動の是非が決定しているが故のものである。であるならば、ここでこの行動の是非は語るまい。それを語る権利は、今を生きる者にはないのだから。






―――――あとがき

 今回は非常に描写が難しい回でした。単調な行動の繰り返しは、同一表現を避けたいという心情と物語の進行上の時間経過などを細かく描写したいという感情が生み出すジレンマによって非常に難しいものです。苦労した分、多くの方の暇に寄り添えれば幸いであります。

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