第17話 屈折する現実
「うん…?」
ぺちぺちと頬を叩く感覚と共に意識が覚醒する。いくつになってもこの感覚は好きになれないものだが、脳が動き始めるとその不快感もなくなっていくのだから不思議なものだ。
「ご苦労様、セム。ここのところ働かせっぱなしだが、大丈夫か?」
セムの強力かつ応用次第で汎用性も高くなる
「さて、そろそろ10が
ヘクシーの情報は…、よし。
「こらこら。お前の
そういうと、ヘクシーは喜びの
「じゃあ、ひとまずはヘクシーを顕現したままで、もう一度水源へ向かおう。」
******
今回は何事もなく水源まで到着できた。もっとも、水源にはゴブリンが五体ほどいたが。
「セム。見つからない程度の吐息だ。ゴブリンが眠りについて、なおかつ殺害可能状態にならなかった場合、吐息がはれるのを待って突入する。」
ここまで幾度となく誘いの吐息を使用させてきたが、その真骨頂は今のような一方的にこちらが敵を認知していて、かつ距離が遠くないという状況にある。極限まで透明になったその吐息は、警戒心の強い敵であれば気が付くのかもしれないが、水辺を前にして気が緩んだゴブリンどもに察知されるような代物ではなかった。
『殺害可能状態にあるモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ4【未死種】およびカテゴリ5【悪業種】に該当。最適なスートは
「登録しない。情報の解析を。全部殺害して構わない。」
『アクションを確認。モンスター情報の解析を行います。』
ジョーカーが飛来し、しばらくしてその情報と共に戻ってくる。
******
種族名:ゴブリン(20属)
カテゴリ:【未死種(4)】【悪業種(5)】
・環境適応
生存する環境に応じ、その体、その思考、ひいてはその能力に至るまで、適したものへと変化する。
*ゴブリン
多種族の雌が多く存在する環境であればその生殖能力が、同種が多く存在する環境であれば情報共有能力や指揮能力が、寒冷地帯では耐寒性能が、環境適応によって向上する。その変化は微細な環境に影響を受け、まったく同種のゴブリンは存在しない。
******
「ほう…。全部のゴブリンがゴブリン小隊のようなモンスターではないのか。その醜悪さから毛嫌いしていたが、情報を見る限りなかなか面白そうなモンスターだな。ただ、ゴブリン小隊が環境適応を持っていなかったから、適応するか生まれてから時間が経ちすぎるか、何らかの理由で消え得る能力だろう。そうなると賭けの要素が生まれてしまうな…。まあいいか。いまは水の確保だ。」
すでに飲み切って、空になったペットボトルに水を入れていく。この水が飲めるのかは分からないが、飲めると信じるしかあるまい。ひとまず水を確保し、背負っている
そしていよいよ、水を汲み始めてからずっと違和感があったもの、水底の調査を始めることにした。
水底は、抱えている液体によって屈折する光の影響で、本来あるはずの場所にはない。しかし、同時に水底は、見えているその位置を超え、さらに深くに目を向ければ、瞳には映らなくても確かにそこに存在するはずなのである。
しかし、いま彼のいる場所は、ダンジョンである。ダンジョンで、地表の原理原則を持ち出して、こうであるはずだという議論を重ねることほど、不毛なことはそうそうありはしない。その具体例として用意されているかのように、水に手を入れた彼のその手は、想像した範囲を超えても水底をとらえることはなく、それどころか確かに、その手は水源を通り越し、その向こうに存在する大気に触れた。
―――――あとがき
ここでようやく、本作におけるゴブリンの立ち位置、定義が明らかになりました。ゴブリンたちは説明にもある通り、本来個体間に確かに差異が認められるはずですが、ここでいう差異とは人間の個人差のようなものであり、差異の小さいものに関しては、同じ種族名を用います。例を挙げるならば、もし仮にこのゴブリンたちが環境適応によって五体で一つのモンスターとなった場合、その種族は、7話で出てきたゴブリン小隊とは明らかに違っていますが、同じようにゴブリン小隊と呼称します。
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