第14話 実数解なし
白馬のような見た目のモンスターは、俺のいる通路からの脱出を試みるつもりらしい。ラビウルフよりも俺のほうが弱いという判断であれば、その行動は正しいだろう。
今のこちらの布陣は、水辺に通じる三つの通路のうちの二つを二体のラビウルフが封鎖し、残る一つの通路には俺とラビウルフが一体、後はマーチがいる。セムはすでに吐息が残存する領域まで下がらせた。すでに
ただ、だからこそ吐息による罠を仕掛けているともいえる。この通路は実質突破不可能と考えるならば、今回の戦いでの勝利の必要条件は「死なないこと」であり、十分条件は、「他の通路に行かせないこと」であろう。
彼の知能で、そして得られた情報の中で、やれることはほぼやったと言っていいだろう。が、それでも不確定要素が多いからこその未知であり、未知でこその冒険であるということは、やはり忘れてはならぬ掟であった。
それは、かの馬の体当たりにも似た逃走を避けたときのことだった。誘いの吐息には、この時点では気づいていないことは明らかであり、なぜかと言えば俺という視覚的な障害があったことが大きな要因であろう。いまさらその罠に気づいたところで、慣性に従い、その領域へと吸い込まれていくだろうということはなまじ思考能力を持ち、常識を身に着けた人間にとってあまりにも自明であり、事実、彼もまたその姿を幻視した。
しかし、直前になってその進路に何か良くないものが充満していることを悟った馬は、その瞬間確かに停止し、振り返り、そして先ほどの最終速度を初速として再出発を果たした。まるで慣性力が働いていないような、そんな現象を引き起こした張本人は、その質量、その速度、その運動量の全てを活かし、彼に向けて突貫する。反応する暇すら与えられず吹き飛んだ彼は、その瞬間確かに
「くっ……。ここの骨は…肋骨か?ヒビくらいは入ってそうだな…。まあいい。もう素早くは動けなさそうだが、なんとかまだ動ける。奴の突進の攻撃力も分かった。おそらくこちらが退けば奴も引くだろうという予感はあるが、ここでの賭けは、十分プラスの期待値だ。」
通路側から吹き飛ばされたことで、身体的な負傷と引き換えに奴を通路側に封じ込めることとなった。再び俺の傍を通過するため、下手に妨害しようとすれば今度こそ致命傷となるかもしれないほどの速度へとものの数歩で加速した馬に対して、最後に残った1で
『殺害可能状態にあるモンスターの存在を確認。登録しますか?対象は、カテゴリ9【善業種】およびカテゴリ10【騎乗可能種】に該当。最適なスートはクラブです。』
「登録する。使用するカードは
つまり、今から俺は11までの制限を賭けられるということ。10時間もの間
飲み干すと同時に、身体が癒える。並行して行われていた登録も終わり、情報を書き連ねたカードとなった
『登録モンスターに、
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種族名:薄雪馬(90属)
固有名称:設定可能
カテゴリ:【善業種(9)】【騎乗可能種(10)】
・駆動
停止するとき、全運動エネルギーを変換して体内に貯めこむ。変換したエネルギーは体温として徐々に体外に放出されるが、使用することで急激な加速も可能。
・私は急に止まれます
急発進、急停止の際に体にかかる負担を限りなくゼロにまで軽減する。
・
【相異なる物理法則】は、騎乗者に対し使用不可。並びに、被騎乗時の全力疾走の強制。
*薄雪馬
薄く積もった白雪のような体毛を持つその馬は、騎乗者を目的地へと運ぶことを存在意義とし、至上の喜びとする。しかし、その馬には生まれついて、例外なく
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―――――あとがき
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