第11話 飛べない鳥
ラビウルフを食べた。それから一時間ほど。未だ体に影響はない。しかし、戦闘中に何かあれば致命傷になりかねない。そのため、少なくとも一日はここで過ごすことにした。この場所に通じる通路は顕現させたハートの近衛兵五体が監視している。つまりは、おそらくは何も起きないであろう時間を過ごすことができるということ。それを俺が望んでいるかは別として。
いま世界で食されている食べ物は、飢饉であったり、戦争であったり、貧困であったり、もの好きの挑戦であったり、その理由は様々なれど、はじめに食べた人と、それに続いた人の功績があってその可食性が認められているのだろう。現在であれば、成分分析などで安全性を確かめられるであろうが、それはあくまで、今現在正しいとされている知識体系での安全性である。であれば、真に安全な食料というのは、ただ経験則によってのみ存在し得るのかもしれない。
ここまで考えて、ふと思う。ラビウルフが食べられたからと言って、果たして他のモンスターの安全性は保証されるのか、と。そもそも、安全性というものは、100%に漸近するものである。知識が増え、経験が増え、その安全性は徐々に100%に近づいていくのだろう。しかし、100%になることは決してない。ならば、今必要になるのは安全性の保証ではなく、自分の許容ラインの設定なのかもしれない。
「ラビウルフが食べられると結論付けたならば、少なくとも毒などの
食事が吸収され、消化され、排出されるまでにかかる時間は、24~48時間とされる。それを知っているならば、二日以上は様子を見るべきだろう。それを知っていて一日という期間を設定したあたりに、彼の心持が如実に表れていると言えた。
******
さて、確かに今、俺は暇である。しかし、暇であるということと、暇を持て余すということは違うのだ。この時間に確認しておきたいこともあるし、
「
あとは、
状態異常回復の手段も別で見つけなければいけない。
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思考の海を漂っていたら、どうやら眠ってしまったらしい。今までは、セムに警戒を任せた仮眠しかとっていなかったから、疲れがたまっていたのだろうか。少なくとも、今はかなりすっきりとした気分である。
「マーチ。セムも。警戒ありがとう。何時間寝ていたのかは分からないが、まあたぶんそろそろ一日経つ頃合いだろう。というわけで、そろそろ出発しようと思う。準備はいいかね?諸君。」
「ピィッ!!」
「よろしい。では、出発!」
マーチが肩から号令を出し、一体が先行、二体が護衛という体制をとる。もう二体は、この体制で十分と判断したのか自らカードへと還っていった。
狼と小鳥を引き連れて、青年は歩く。その後ろでは、どこかやり遂げた表情をした奇妙な生物が、ふわふわと浮かびながらついて行っている。
―――――あとがき
早速誤字報告をいただき、感謝と
ファーストペンギンとなることも大事なことかもしれませんが、冷たい海に飛び込む勇気を持つ人を称える気持ちは、いつまでたっても忘れたくないものですね。
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