第9話 カナリアの声

 落ち着け。俺が倒した狼もどきは、間違っても飛行可能種ではなかろう。であるならば、セムが相手したほうか?まあいい。とりあえずはセムと合流しないと。


「いったん保留する。まずはA of the ◉リングのエースを送還。同時にA of the ♥ハートのエースを顕現。」


 A of the ♥ハートのエース。ただの包帯に見えるそれは、巻き付けた箇所の回復力を高め、痛覚を緩和する。痛覚は人間の生存にとって必要な感覚であるから、メリットしかないとも言えない。が、あくまでデメリットを理解して使うならば、きわめてすぐれた道具である。


 A of the ♥ハートのエースを太腿に巻き付け、未だ微かに息がある一体が動けそうにないことを確認すると、セムの方へ向かう。その視線の先には、眠っているわけではないにもかかわらず、一切の能動的行動を放棄した狼もどきたちの姿があった。


「これはどういった状況だ?……ふむふむ。ええっと…あれか。」


 俺とセムによる謎コミュニケーションの結果、狼たちには誘いの吐息があまり効かず、しかし、その背後で隠れていた小鳥には有効だったと。その上、小鳥を眠らせた途端に狼は動かなくなったということが分かった。


「つまりは、あの小鳥が登録できるモンスターか。この狼もどきたちはどういう扱いなんだ?…まあいいか。登録を開始。使用するカードは、Q of the ♥ハートのクイーンだ。」


『保留中のアクションの進行を確認。登録開始。』


 いつものごとくカードがホルダーに吸い込まれ、その後一枚が小鳥に向かって飛んでいく。カードに吸い込まれるように小鳥の姿が消え、登録は完了した。


『登録完了。固有名称を設定しますか?』


「保留だ。ほぼ何も知らない奴に名前なんて考えられるか。」


『アクションの保留を確認。』


******


種族名:キャニス・ドミナス(336属)

固有名称:設定可

カテゴリ:【未死種(4)】【飛行可能種(7)】【王種♀(12)】

能力アビリティ

・鳥の報せ

 自身の支配下にあるモンスターに対し、鳴き声によって詳細な指示を出す。

・王権の主張

 王種に固有。自身の支配可能なモンスターを支配する。キャニス・ドミナスであれば、イヌ型モンスターのみ。


*キャニス・ドミナス

 一見するとただの黒いカナリアであるそのモンスターは、優れた危機察知能力を駆使して生存を続け、徐々に配下たるイヌ型モンスターを増やしていく。遠くまで響くその綺麗な鳴き声は、王権を主張することにより長い長い手足となる。


******


「ふむふむ。なるほど。キャニス・ドミナス。直訳すれば犬の飼い主か。ただ、こいつが真価を発揮するのはしばらく後になりそうだな。駒が増えるほど優秀になるタイプだぞ。きっと。では、名前は…そうだな。マーチにしようか。」


『保留中のアクションの進行を確認。設定完了。同時に、王種の王札による登録を確認。現在、個体名マーチの支配下にあるモンスターの登録を行いますか?登録は、同スートのJジャックでのみ行えます。』


「おや。これまた新情報。つまりは、王種を従えると兵士がついてくるということでいいのか?まあ、どちらかというと狼もどきが欲しかったんだし、当然登録するが。」


『アクションを確認。登録開始。』


 いつものようにカードが飛び、モンスターを飲み込む……、だけかと思ったが、今回は少し違った。自動的にジャックがばらばらに破れ、その一枚一枚がそれぞれの狼もどきへ飛んでいく。その後はやはりモンスターが吸収され、そのまま手元で一枚に戻った。


******


種族名:ハートの近衛兵[ラビウルフ(44属)]

個体数:5

カテゴリ:【未死種(4)】【兵種(11)】

能力アビリティ

・単純加速

 ただ前進するときのみ、速度が大幅に上昇する。

・聴き耳

 耳を立て、周囲の音を拾う。その範囲は、障害物の一切ない空間であれば5kmほどになり、可聴範囲も広くなる。

・近衛の矜持

 同スートの王札が顕現中、黒の制限ブラックジャックを無視して顕現できる。


******


『登録完了。このカードには複数モンスターが登録されるため、固有名称は設定できません。全フェーズ終了。テーブルクローズ。』


 おおうふ。いくつか新情報もあったし、いろいろと気になるところもあるが、まあ一つ言いたい。……近衛の矜持、強いな。





―――――あとがき

 こんにちは。今回登場した王種、マーチは、音速を表すMachマッハと君主を表す接尾語-archの組み合わせを名前の由来にしています。ちなみに、第6話のタイトル、横断歩道はおそらく周りをキョロキョロ見渡しながら歩いているであろう主人公の姿を横断歩道の通行人に重ねたからです。

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