第5話 登録番号00001
「自衛隊員のみなさんへ」
僕、佐藤英雄は、ダンジョンの探検へと向かうことにしました。危険は十分に理解しています。そのため、あなた方の責任問題にならないよう、この手紙を残していきます。捜索は不要です。というか、お断りです。なお、政府の調査内容がアビリティに関することであった場合、僕はアビリティを得ることができましたとお伝えください。では、引き続きお仕事頑張ってください。
追伸
自衛隊員の方が眠ってしまったのは、バクというモンスターの仕業らしいです。彼に落ち度はないので、減給はよしてあげてください。ダンジョン内のモンスターであっても、危険で無いモンスターであればダンジョン外に出ることも可能なようですよ。なので、そこが安全ではないとは、未だ言い切れないのかもしれませんね。
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ここで、交代の時間となってダンジョンにやってきたある一人の自衛隊員として考えてみよう。先日までのようにダンジョンに戻ると、そこには眠っている同僚が一人。とりあえず起こして話を聞こうかというところで見つけた置手紙。ひとまずじっくり読んでみて、そして分かったことは、自分には荷が重いということ。こうして、混乱状態にある自衛隊員と、ぐっすり眠れて少し体調がよくなった自衛隊員は地上に帰った。
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「つまりは何かね。この佐藤なる人物は、自らダンジョンの奥に向かったと?」
「残された手紙からはそう読み取れます。」
「ふむ。我々に落ち度があったわけでもあるまい。自己責任というものではないのかね?」
「しかし、そうであったとしても世間はそうは思うまいよ。」
「問題はそこではないでしょう!その手紙に書かれていることがすべて真実であるならば、モンスターはダンジョンから出て来得る。いや、もう出てきているのかもしれない!」
「ではどう対策するのだ?!見つかっている入り口にはすべて監視体制を敷いている。世界中がだ。これ以上何ができる!」
「まずはメディアを通して公表する内容の精査を…」
「では、アメリカやEUにも連絡をせねば…」
東京に新たに建設された、ダンジョン対策本部。この建物が建設されるということが、ダンジョンという異物とは長い付き合いとなるだろうという確信を感じさせるが、その一室では、もはや議論とも呼べない言い合いが行われていた。国の重鎮をしてそうせしめるほど、その置手紙には価値があった。一年がかりでろくな情報を得られなかったダンジョンに関する情報、そして、政府としての傷となり得るだけの事実。一人の、たった一つの決断は、世界の流れに干渉しつつあった。
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その日、新たな発表が、政府から出された。曰く、ダンジョンからは未確認の生物が現れる可能性がある。そのため、深く、そして不自然な穴を発見した場合は、速やかに連絡をしてほしいというもの。その発表を受けて、国民の一部は不安心を掻き立てられ、一部はネットで盛り上がり、そして半数程度は、楽観視の姿勢を取った。これにより、大きな騒動もなく、日本は稼働し続ける運びとなった。
しかし、それを契機に変わった変化が一つ。その日を境に、登録者の番号が改められた。アルファベット+5桁の数字-生年月日という表記になったのだ。つまりは、2000年の1月2日に生まれた人であれば、A0000-000102という具合に。何事もなかったかのように行われたその変化は、まるで何かを包み隠すかのようであった。
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それから数か月もすれば、世間はダンジョンに慣れ始めた。常時ダンジョンの監視を継続するせいで税率は多少上がったが、逆にダンジョン監視のアルバイトは仕事量の割に高額で人気となり、自衛隊の負担も少し減った。そんなころだった。ある一人の馬鹿が、情報という名の爆弾を投下したのは。
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始まりは、こんな一つの投稿だった。
『俺氏、被検体になった結果アビリティが生えたんだが。』
初めはまたいつもの、頭のおかしい奴でしかなかった。ただ、証拠動画が出され、有志による解析が行われ、どうやら加工されていないらしいと噂され始めたあたりから、世界は大騒ぎになった。かつて夢見る少年少女だった者が童心を取り戻し、ファンタジーを夢見た。冷静だったものは、新たな暴力装置の出現におびえ、聡いものは社会の崩壊すら幻視した。未知の力による力の不均衡は、法によらない、暴力による統治の再来を予感させるものでもあった。しかしながら、どちらにせよダンジョンの規制解除は時間の問題となったと言えた。
―――――あとがき
今回は主人公の登場しない回でした。しかし、主人公は一人で勝手にダンジョンを冒険するので、世界の変化を描くためにはこのような回は必要になってきます。ご容赦ください。
さて、今回の話は、一見すると政府の不手際のようですが、アビリティという社会基盤を壊しかねない現象を前に、取れる手段は実際かなり少なかったと思います。
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