第4話 クロにもシロにもナレルモノ
仮称バクとは、対象を昏睡状態たらしめること、ただ、その一点に特化したモンスターである。毒々しい見た目の吐息も、その効果はただ睡魔を誘うだけのものであり、その後の危険を考慮しなければ、害獣というよりはむしろ益獣たりある存在であった。そして、その唯一の武器である能力が無効化される以上、敵対者の不慣れさを加味したとして、それでもなお、それは戦闘たりえなかった。
実際、
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毒々しい吐息に十分すぎるほど警戒し、しかし、スペードを引いたことにより、敵の攻撃範囲外からの攻撃手段を持っている。
撃鉄を起こし、狙いを定め、引き金を引く。距離を取り、撃鉄を起こし、狙いを定め、また引き金を引く。反動や手元のブレで、はじめはまともに命中しなかった銃弾ではあったが、それでも分かったことがある。すなわち……、
「こいつ、さては弱いな?」
その推測は、一発の銃弾が命中したとき、確信となった。ただ一発の銃弾で、その皮膚は貫かれ、その体躯からは血が流れた。碌な攻撃手段を持たず、移動速度も、数分で素人が銃弾を当てられるレベル。防御力は人間並みで、まさしく弱いモンスター。この状況は、特化型モンスターの脆弱性の露呈と言えた。
流血するモンスターを観察していると、徐々にその吐息が弱まっていく。その様子は
「これが演技だったら、お前は俺より人間らしいよ。」
近づきながらつぶやく。目を合わせたまま距離だけが縮まり、初めて吐息の中に踏み込む。
『服従状態のモンスターの存在を確認。
「登録を開始。使用するカードは、
『アクションを確認。登録開始。』
リボルバーはカードへ戻り、手元にあったすべてのカードが、いつの間にやら装着されていた太もものカードケースへと入り込む。その後、一枚のカードがバクのもとへと飛んでいき、触れると同時にその体の全てを飲み込んだ。
『登録完了。固有名称を設定しますか?』
「ああ。名前は、……そうだな。セムにしよう。」
『設定終了。全フェーズの消化を確認。テーブルクローズ。』
手元に飛来したカードには、相変わらず
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種族名:バク(28属)
固有名称:セム
カテゴリ:【未死種(4)】【飛行可能種(7)】
・誘いの吐息
眠気を催すガスを放出する。即効性をコントロールできるが、即効性を高めるほど視認性が上昇する。
*バク
睡眠中、生物は一切の能動的行動を禁止される。つまり、依然生物的に生存状態にありながら、概念的に死亡状態になる。つまり、必要以上の睡眠は、寿命を減らすことと概念的な相似性を有する。バクとは、生物に概念的な死を付与することで、その寿命を自らのものとするモンスターである。眠らせること自体が目的であるため、睡眠中バクから危害を受けることはほぼない。そのため、ダンジョン内で生を享けながら、非危険生物としてダンジョン外へ出ることを許されている、数少ないモンスターの一つである。
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さて、今この状況を鑑みれば、
・奇しくも監視役となっていた自衛隊員は昏睡中。
・安全地帯と思われたエリアにバクが侵入した理由は判明。
→現在の自衛隊員の安全度は低くはない。
・自身の能力が把握できている。
であれば、もう何を迷う必要があろうか。死んだらそこまで、待ったなし。いざ往かん。未知なる大地へ!
…ただ、心配させても悪いから、置手紙だけは残していこう。
―――――あとがき
REM睡眠、ノンREM睡眠という言葉は、聞きなじみのある方も多いでしょう。この言葉は、睡眠中、眠りの深さを眼球の動き方で測定したことに由来します。つまり、Rapid Eye Movementの頭文字を取っているわけです。セムは、敵を深い眠りに誘うモンスターなわけですから、Stopper of Eye Movementsの頭文字から命名しました。
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