第3話 夢の中へ

 これが僕の能力アビリティ。これが、僕だけの力。この力があれば、もしかするとこの先にだって…。

 

 今日、僕は生まれ変わったんだ。そんな実感が、時間と共に膨れ上がる。ただ主人公に、冒険譚に憧れた少年Aはもういない。憧憬に向かって走るために必要なものは、十分すぎるほど持っている。あとは、臆することなく飛び込むだけだ。死ぬかもしれない。痛い目にも、怖い目にも合うだろう。いいじゃないか。僕は、いや、俺は、そこに飛び込まなくては、


 すぐそこだ。たった数十歩。たった数十歩先に、俺の物語の舞台ステージがある。その事実だけで、無為に過ごすこの時間も愛おしい。俺はもう、二十年近く待っている。あと一日や二日。いや、機会が来るまで何日だって、待ってやろうではないか。


 一時間ごとに入れ替わる自衛隊員を観察しながら、じっと体力を温存する。幸か不幸かどの隊員も職務に忠実で、警戒を絶やすことはない。言い換えると、こっそり抜け出す隙もない。ここが完全に安全ならば、気絶でもさせて抜け出すのも手だが、その間に危険が襲ってきたら寝覚めが悪いし、何より俺は気絶させる方法など知らない。そうして、不可思議な均衡状態が維持したまま、早くも三日が過ぎようとしていた……。


******


『自動発動:Q of the ♣クラブのクイーン。保持者に対する不利益状態の解消を開始します。』


 急激に、意識が覚醒する。睡眠への名残も、いつもと違って糸を引くことはなかった。それは、きっと能力アビリティが発動したからだろう。そして、その文言を聞くに、俺は、何者かに眠らされた…?そうでなければ、睡眠など生命にとっての必修科目なのだから。そんなことを考えながら目を開くと、何者かと目が合った。


 それは、あえて動物に例えるというならばバクになるだろうか。しかし、その体躯は小さく、人の頭ほどしかない。前足だけが長く、後ろ脚は存在せず、指は三本ずつしか存在せず。そして何より、それは宙に浮いていた。


 驚きは大きく、しかし、身体はよく動いた。横に飛び出しながら相手を観察し、心と体を臨戦体制に移行する。どうやら奴もこちらが起きるとは思っていなかったらしい。いきなり襲い掛かってくるということはなかった。


「ちくしょう。まだカードごとの使い方の精査も終わっていないのに…。だが、だ。だ。俺はついに、機会を得たっ!!!」


 戦闘に発展するであろうという展望。戦い方を確立し得ていないという不安点。冒険への切符を得た高揚。その全ては一つとなって、ただ、戦意へと変わった。


「【遊戯の時間ポーカー】の開始を宣言する!」


『アビリティの発動を受領。phase1開始。全カードの使用停止を確認。phase2開始。ディール。』


 そして、五枚のカードが眼前に現れる。それぞれ、A of the♠スペードのA7 of the ♣クラブの77 of the ♦ダイヤの7

Q of the ♥ハートのクイーン、そして、3 of the ◉リングの3


 スペードのAはかなりいい。クイーンも一枚は欲しかったところだ。リングの3は返すとして…。


3 of the ◉リングの3を使用不可に。」


『アクションを確認。phase 3 開始。ディール。』


 帰って来たのは、7 of the ▲グレーの7だった。


『スリーカードを確認。戦闘終了まで、被ダメージ一割減、与ダメージ一割増を付与。アンティ:ALL IN。phase 4開始。show-down。』


 アナウンスの終了と共に戦闘が開始する。どうやら敵は純粋な戦闘能力は低いらしく、鼻からどう考えても悪影響を与えてきそうな息を吐きだす。それに対し、俺はA of the♠スペードのAを顕現させた。


 スペードに割り当てられた武器は銃の類。その中でもAは、ポーカーにおける最強のカード。戦いになれていない今の俺にとってはぜひとも引き当てたいカードだったと言えた。


割り当てられた武器、能力

-A to 10-

♠(スペード):遠距離武器

♥(ハート):回復薬

♦(ダイヤ):交換可能

♣(クラブ):近距離武器

◉(リング):防具

▲(グレー):デバフ効果

✚(クロス):バフ効果


-J to K-

J(ジャック):対応するキングに対し、出口となる。

Q(クイーン):能力者に不利益となる状態の改善

K(キング):対応するジャックに対し、入り口となる。




―――――あとがき

 さて、今回、スート一覧が登場しました。一般的な(というかおそらく全ての)トランプは4種類のスートで構成されていますが、ここではあえて7種類登場させました。スートの強さは、♠>♥>♦>♣、◉>▲>✚>◉です。

 トランプは、その全ての数字を足すと364、ジョーカーを1として365になるという美しい性質を持っていますが、364の因数は4、7、13であるため、ここではトランプでは代表的でない7を使用したかったという背景があります。

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