第10話:GIRLS ・JUSTICE・ICE CREAM,and SEX
「で、何だ?この何処からどう見たって優等生。イイ子ぶりっ子ちゃんのコイツが“白灯蛾”なんて如何わしい店に行ってたって?」
八島は秋の寒空の下、ブラックモンブランを口にしながら言った。
「その通りだ。枝毛女の亜紀。」
田上はコンビニで買ったササミフライを噛みちぎった。
「手入れに気を使ってないのは認めるけどね。どうしてアンタは初対面の人間を下の名前で呼ぶ?」
咲がパルムをひと舐めしてから言う。
「田上さんは、フレンドリーな方なのよ。隔たりを感じさせないの。」
「黒髪オールバック銀ジャージが⁉︎」
田上はササミを噛み締めながら言う。
「部活のユニフォームだ。趣味についてはコーチに言え。」
「誰でも構わず真っ向勝負。確かに、オールウェイズ・パンチングレンジだね。」
私はブラックモンブランの包み紙をゴミ箱に放った。狙いは外れた。
「黙れ!俺は咲に本題を聞けりゃそれでいい。余計な口を挟むな。」
田上が恫喝する。私はブラックモンブランのチョコのガワだけ齧った。
「私としちゃぁ、二人とも謎だぜ。どっちも“村縦地区”にいるには不自然な御身分だ。」
「同い年だろ。此処にいる全員。」
「そうね。バイクに乗ってそんな格好してても、とっても可愛い顔してるわ。八島さん。」
微笑みながら咲が会話に入る。
「そりゃあ、どうも。親父にも褒められた美点だな。そこは。」
「かなり、胡散臭いがな。」
田上はササミフライの包み紙を、グシャリと握り潰した。
「咲。良い加減にしろ。お前はどうして彼処にいた。言え!」
咲はパルムを一口頬張った。あざとく、白いアイスを口元につけ、微笑んだ。CMの一部みたいだった。
「しつこい女ね、田上さん。嫌われるわ。しつこい男と同じようにね。」
「彼処は、『タックス・マンズ』が仕切ってる店だ。彼処以上に如何わしい場所は無い。」
咲は口元を人差し指で拭い、長い舌でそれを舐め取った。
「んふ、じゃあ。そこでイカガワシイことをしていたのかもね?」
田上はねめつけ。咲はペロリとパルムを舐めた。
「無理矢理、吐かせてもいい。」
ジャージのポケットから何かを握り締める音がした。
「やめとけ。ALSECに袋叩きにされたいか?」
私は語気を強めて言った。
「ふん、連中は此処まで来やしない。連中が興味あるのは金持ちだけだ。」
「ニュースを見てなかったか?コンビニの防犯システムが強化されたってヤツ。アンタがコイツを殴ってみろ。ALSECの連中がKG9片手に乗り付けてきて、コンビニごと蜂の巣にされるぞ。」
後半は少し盛ったが、本当の話だ。コンビニじゃ余りデカい顔は出来ない。まあ、このコンビニにまで設置が行き届いているかは微妙だが....
田上はギョロリと此方を睨め付けると舌打ち一つ、肩で風切り、夜の闇へと歩き去って行った。
「ヤバい女。」
自分のことを棚に上げ、本音を漏らした。
「彼女、ボクシング部の部長さんなんですよ。“正義感”の強い“正義漢”ならぬ“正義乙女”なんですよ。」
「それ、笑わせようとしてる?」
田上と同じセリフを吐いてしまう。
「いいえ。でも、有難う御座います。田上さんのコトを追っ払って頂いて。自分勝手な正義を振り回す人より、面倒くさい奴はいらっしゃいませんから。本当にね。」
言葉の節々に毒を感じた。
「まぁ、そうだな。」
私はブラックモンブランを食べきってから続けた。
「ところで、“白灯蛾”に行っていたと聞いたけど、アソコはJKを斡旋してるってことで有名な店だ。アンタ...」
咲が此方を見据える。黒い瞳が此方を射抜く。
「ふふっ。少しアルバイトをしてきたんですよ。青春でしょう?」
咲は私の眼前に近づく。吐息が感じられる距離。薄い化粧に桃色の口紅。明かりが彼女の肌を白く妖しく照らし出す。咲はにこりと笑い、私の耳に吐息を吹きかけた。
「お姉さんに宜しく。」
咲は顔を離す。鼻唄を歌いながら、自転車に乗る。そして、夜の闇へと消えて行った。
私は唖然とした。
「あれじゃあ、“性技乙女”だ。最近のJKは進んでんなぁ。」
自分のことを棚に上げ、再び独りごちた。ふと、ブラックモンブランの棒を確認する。
“アタリ”だ。
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